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砂の城 (完結作品)

作: しょうご

「そんな所に作ったって、流されちゃうだけですよー!」

水谷さんの元気な声が、俺の耳に届いた。

 海水浴客どころか、海の家の店員さえもいない、早朝。 この広さだけは大きな浜で、漁師の側らライフセーバーをしている俺は、いつもこのくらいの時間に、浜へやってくる。
「今日はヤケに早いんだな、水谷さん」
「ええ、ちょっと早く来すぎちゃいました」
 少し照れたように、水谷さんは笑った。彼女は海の家を経営している親父さんの娘だ。本当の年齢は二十二、三らしいが、見た目だけなら高校生でも通るだろう。
「親父さんは……。来てないみたいだな」
「はい。お父さんはまだ家で寝てます。……もう、開店前三時間には起きてって言ってるのに」
「そりゃ、親父さんらしい」
 あの、商売人にしてはひどく不精な親父さんの顔を思い出して、俺は笑った。その分、この童顔の娘さんはしっかり者に育ったわけである。
「上杉さんっていつもこんな時間に来てるんですか?」
 こんな時間。六時半。他のライフセーバー達が来るのは、後一時間後か、二時間後か。ほぼボランティアのような待遇で集められているだけあって、士気はそんなに高いものではない。
「ああ、うん。で、こんな風に砂遊びしてるのさ」
 三十を目前にしたいい大人の男が、砂遊びなんて。もっと他に言い方は無かったろうかと思ったが、波打ち際に砂の城を作っている事を表す言葉は、自嘲的に言うそれしか、見つからなかった。
「でも、そんな所に作っても、すぐ流されちゃいますよ?」
 彼女が言うが早いか、俺の手元にあった小さな砂の城は、波にさらわれていった。
「あー。結構、上手く出来てたのに」
「良いんだ。流されるように、こんな所で作ってるんだから」
 俺が低く呟くようにそう言うと、彼女は怪訝な顔をしてこちらを見てきた。
「そう、なんですか」
 変な目で見られてしまった。が、彼女の方も、自分がどういう目で俺を見たかに気付いたようで、気まり悪そうに俯いた。
「ここ一ヶ月で、随分慣れたよ。作るのも。毎年、七月の最初は不格好な城ばっかりしか作れないんだけどね。」
「え? 毎年作ってるんですか?」
「ま、まぁ……、そうだよ。ここ、九年……かな」
 そう言い切った後、俺は深いところまで話し過ぎたと、後悔した。彼女には何も関係のない話なのに。ただ俺が勝手に結び付けているだけで。
「な、何でそんな事を?」
 さすがに驚いた様子で、彼女は言った。迂闊なことを言ってしまったようだ。
「ちょっと、な。」
 言葉を濁して苦笑いを返すと、どう解釈したのか、彼女はそれ以上は聞いてこなかった。そして、俺の横に座り、慣れない手つきで砂の城を作りだした。
「久しぶりだなぁ。こんなの作るのって」
 しばらく難しい顔をしてしゃがんでいたが、ぽんと砂を叩くと、でーきたっ!と言って立ち上がった。 彼女の足元には、砂の城というより、山のようなものがポツンとあった。
「それ、城か?」
「城ですよ!」
「山にしか見えないって」
「……でも、城です!」
 その時。また、波が俺の手元の城と彼女の城を、もろとも海の向こうへとかっさらっていった。 流されることは承知だったろうに、ちょっと慌てた様子で海の方へ駆けてゆく彼女と、十年前の光景が重なって見えて、俺の視界は涙で滲んだ。


 十年前、俺は高校を卒業してすぐに漁師を継いだ。

 他のクラスメイトは、東京に出たいだの、もっと近代的な職業に就きたいだの言っていたが、俺は元々漁師になりたかった。俺は海が大好きだったし、海に生きる父の姿はとても強く大きく見えた。その父は俺の選択を聞いて、かなり喜んだ。うちの息子は他の馬鹿とは違う。とまで言って、母に呆れられていた。
 俺も乗せられたように機嫌が良かった。いつも険しい顔をしている頑固者の父が、今までに無く、俺のことを誉めそやしてくれた。大して勉強も運動もできなかった俺は、父のような大きな存在に、手放しに褒められたことが嬉しくて仕方が無かった。
 その所為だとは思いたくないが、一因になった事は否めない。あの死亡事故の。

 俺は漁師として初めて海に出た翌日、付き合っていた彼女とこの砂浜へ遊びに来た。 いつもなら近すぎて、遊び場所などにはならないところだが、彼女はこの辺の育ちでなかった事もあって、海水浴へ行く事となったのだ。 俺も彼女もはしゃいでいた。後から思えば、海水浴をするにはきつすぎるシケだったが、あの日の俺はそんなこと気にもしなかった。 その時点で、本当ならば俺は漁師失格だった。
 そして、彼女は俺が少し目を離した隙に、海に流されて、亡くなった。
 事故の後、俺は漁師を辞めようかと思った。 自分は漁師として、絶対に間違えてはいけない目測を誤ったのだと、その時やっと自覚した。大好きだったはずの海を見るのも嫌だった。
 しかし、葬式に来た俺に、彼女の両親は言った。

逃げるな。 忘れるな。一生、苦しみ続けろ。 と

 だから俺は、この十年間ずっと海に居続けている。 ギリギリまで漁に出て、シケでどうにもならないときは、防波堤からずっと。海を見ている。 そして事故の翌年から、七月と八月の二ヶ月間。週一回ライフセーバーをしている。 毎朝、あの事故の日のように、砂の城を作りながら。
「上杉さん。私の顔に何かついてますか?」
「い、いや」
 俺は焦って答えた。どうやら、水谷さんの顔をずっと見つめていたらしい。波が俺の足を濡らす。
「おおい。綾ぁー。店に戻ってくれー!!」
「あ、はあい!やっと起きたみたい、お父さん」
 そう言って、水谷さんは海の家へ駆けて行った。


その姿は、亡き彼女にそっくりだった。


 彼女が去った後、俺は、出来かけていた城が流されてゆくのを、ただ、じっと見つめていた。

ーーーーーーこれは、当然の報いなのだ、俺への制裁なんだ。

自分の胸に、深い傷がつくのを、感じていた。

※この小説(ノベル)"砂の城"の著作権はしょうごさんに属します。

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