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作:
ぶるーりぃ
夕暮れ時の公園は橙色に染まっていて、とても綺麗。切ないぐらいの。
私と浩志は、気まずい無言のまま、ベンチに腰掛けてまだ遊んでる子供を眺めていた。
「なぁ……俺たち、そろそろ別れないか?」
来た。
終わりが近づいてると感じていたとは言え、唐突な浩志の言葉に、思わず息が詰まる。
喘ぐように、酸素を吸い込む。
何も、何も言えなかった。
ただ俯いて、下唇を噛む。
浩志は何も言わない。バカ、取り繕いなさいよ。いつもみたいに、「冗談だってば」とか言って笑いなさいよ。
でも、ちらりと盗み見た浩志の目は、冗談を言ってるような目じゃなかった。
その現実に、私はただただ打ちのめされるだけ。
冷めていたと思ってたのに、心の奥底で彼をまだ愛していると気付かされて、本当に何も言えない。
「ホントに……?ホントに、もうダメ?」
一縷の望みを込めて。
カッコ悪いけど、すがるように彼を見る。でも、浩志は真っ直ぐな目をして私を見つめる。
ダメだ。どうしたって繋ぎ止められないことがわかってしまう。
「ごめん。もう、好きにはなれないんだ」
「どうして?他に好きな人でもできた?」
降りる沈黙。
その沈黙が、否定にも肯定にも取れるようで、でも私は否定を信じたかった。
あぁ、そんな私の知らない眩しい顔で私を見ないで。気持ちがぐらりと揺らいでしまうじゃない。期待なんてできないのがわかってるのに、目を逸らしてくれなかったら期待してしまうじゃない。
「ごめん。元気でやれよ」
それ以外何も言わずに、浩志は立ち上がる。
そして、彼は寂しい笑顔を浮かべた。何故だか「ありがとう」って言ってるような気がして、胸が痛くなる。
待って。
置いていかないで。
でも、私の身体は雷に打たれたみたいに、動かない。カチカチに凍った氷の彫像のように、指先も動かせない。
遠ざかる背中。
私を一度も振り返らない、見慣れたはずの知らない背中。
待ってよ。
涙が流れてるのかどうか、今自分がどんな顔をしているのかさえ、わからない。
行っちゃう。浩志が行っちゃう。
待って、私を愛して。
まだ愛して欲しいのに。
浩志は私の叫びが聞こえていないかのようだ。
彼が視界から消え去ってしまうまで、私は何もできず見ているだけだった。
目が痛い。
頭のどっかがぼーっとする。
あれから何も考えられない私は、 部屋に閉じこもって膝を抱えているだけ。
何度も浩志の携帯に電話したけど、電話に出てくれない。
どうしたらいいのかな。
高校時代からずっと一緒にいたから、彼がいない生活なんて考えられないよ。私、甘えてたのかな。いて当たり前だとずっと思ってた。
浩志から貰ったプーさんを抱きかかえて、途方に暮れる。
どこから狂ってしまったんだろう。
浩志はサインを出してたはずなのに。構ってくれってサインを出していたはずなのに。
お母さんが心配して、ちょくちょく部屋を見に来てくれるけど、今はその心遣いがとてもうざったい。
何も言わなくたってわかっているのなら、今だけは一人にして。
泣きすぎて腫れた目は、真っ赤で、こんな顔で外になんか出らんない。
「こんなことなら、もっと優しくすれば良かった」
いつだって、私は浩志をないがしろにしてた気がする。
約束してた日に友達を優先させた時も、浩志は嫌な顔一つ、文句一つこぼさなかった。「気にしなくていいよ」って言ってたっけ。それに甘えて、わがままのし放題だった私。
浮気はしたことなかったけど、彼の気持ちは考えてるようで、これっぽっちも考えてなんかなかった。今は、そう思えてしまう。
それに、その彼の優しさが無性に癇に障って、当り散らしてしまったことさえある。あの時の、今にも泣き出しそうな浩志の顔が忘れられない。
「そりゃ、フラレて当たり前か」
思わず自嘲的な呟きが漏れる。
フラレて当たり前だ、こんな最低な私なんか。
浩志は大きな心で私を愛してくれてるのがわかってたはずなのに。
いつからか、それに馴れてしまって、それが当たり前だと思ってしまった。
だから、彼は離れていった。
私が、愛さなかったから。
灰色の景色が、私の中のフィルターを作る。
何を見ても、色彩がすっぽりと抜け落ちたような感覚。彼と付き合ってた頃はあんなに華やかだったのに、今は色がない。
何をするにしても、手に力が入らないんだ。身に入らなくて、職場でも怒られてばかり。
ぼんやりと、このまま日々を暮らしたままじゃいけないってことくらい、わかってる。
わかってるけど、もうしばらくはダメージが残りそう。
友達は気を使って合コンとかに誘ってくれるけど、新しい恋なんてもう考えられそうにない。
「来週の月曜の夜だから、忘れないでよ」
「うん」
向かいに座った真希が、オレンジジュースを飲みながら言う。
休日のレストランは混んでいて、とても賑やかだ。彼女は、私が静かなところにいたら気が滅入るだろうと考えてくれているのだろう。
その気遣いはとても嬉しい。
「まぁ、あんまし期待しない方がいいかもよ?みんな変わってないからさぁ」
「うん」
「ちょっとは気分転換になると思うし、絶対あんたは来ないとダメだからね」
「わかった、ありがとう」
どうしても言葉少なくなってしまう。真希はそんな私が心配で見てられないらしい。当たり前か。
彼女が話しているのは、大学のプチ同窓会だ。幸い、浩志とは大学が違ったから、顔は合わさない。
でも、彼の姿がちらついてちらついて離れない。
もう遅いってわかっているのに、こう思ってしまう。
愛して。
他の誰でもない、あなたが私を愛して。
今ならきちんと愛せると思うから。
※この小説(ノベル)"Please Love Me"の著作権はぶるーりぃさんに属します。
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