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きみがもう暗算が出来ないのならお釣りなんか要らないのに (完結作品)

作: merongree

塞いでいる耳みたいにしっかりと閉じられたドアノブに触れたら
今度はずっしりと鎖を巻いてあるみたいに重い手応えが
跳ね返ってきて私を一瞬のうちに憂鬱にした
抵抗が二重になっているのだ 彼女の掌がそこに繋がってた
まるであざやかなカラー写真でも見ているみたいだったが
彼女の手が鍵をしめているドアノブの上に約束のように堅く
重ねられているせいでただ閉まっているだけでなく動かない
そういうものをいつの間にか私は全身で相手していた

エリーが鍵を閉めている上にさらに手を重ねているというのは
彼女の全身が同意したとは思えないほどの滑稽な警戒心だった
彼女が吐いている吐こうとして苦しんでいるというだけでも既に
彼女が全幅の信頼とともに身をおいていた何も不条理なことのない
理屈に基づいて理屈にその遂行を委ねられている歪みのない世界が
ほころびかけているということを如実に表していた

だって鍵を閉めている時点で たぶん彼女のそれまでの言い草では
鍵が勝手に開いてしまうようなへまを犯すはずがないのであるから
リモートコントローラーの位置がいつもあるところにないという
ただそれだけの事でも心底不思議そうな顔をして移動した先を見る
いったい何時の間に誰がどんな理由で何の必要のためにそうしたのか
その理由がまるでリンゴが落下するときに通る経路のように彼女には
物の移動のために必要だった
つまり重力の法則のように歪みのない力が 彼女のいる世界には働いていて
あらゆる物体は宇宙の中心めいたものによって定められた各々の目的地へ
木から離れて落ちるような滑らかさによって運ばれて行く
それ以外の運動など起こる筈がないし起こりようがないというのが彼女の
信条であり彼女の持っている宇宙の出来方であり存在の仕方であったから

鍵が開いてしまうことを考慮して手で抑えるなんていうのは
リンゴが浮き上がってまた木にくっ付くんじゃないかという危惧に等しい
彼女が咳きこんでいるとか自分の声をもらすまいとしている以上に
彼女のこの理論が中で壊れているというのが私には衝撃的で呆然とした
私はバーンと片方の手でまるで平手打ちするみたいにドアを叩いた
浩明のおしゃべりが止んだ気配がした 彼は驚いただけでなく私たちに
起きているらしいことに注目したような気配があった 浩明、あとでね、と
言って私は彼の声がしている携帯電話を床に置いた 彼はぐるぐるぐると回り
床のくぼみにあった僅かな傾きのためにそのまま静止した
私はまるで閉じ込められているエリーを 救出でもするような勢いで
ドアを今度は思い切り蹴飛ばした 私はこの白熱した攻撃の間にエリーを
責めることを自らに容認していたというわけでもないが エリーに対して
物事はリンゴが木から落ちるみたいに淀みなく無駄のない過程で起こるという
無駄なことなど起こりようがないというようなぴかぴかしていた彼女の理論を
手放して不安がっていたことへの苛立ちを込めて蹴った 彼女を助けてやれない
そのことへの苛立ちと 彼女が彼女でなくなっていることへの怒りは不思議と
私のなかで等しい大きさで 私は彼女が可哀そうだというより彼女に失望した
ような気持ちで彼女と隔てられているドアを思い切り再び蹴った

ガタンという音のあとドアノブを回す音がした 彼女がみっともなくまるで
地球人のようにうろたえてドアノブが開かないことを確かめている仕草
そんなの本当にエリーじゃないような気がした 高慢なぐらいプライドが
高くて 決して間違ったことなど起こらないという主義で 地球人なんか
彼女の主義とぜんぜん違ってあやふやな事ばかり起こすというのにそれも
あなたたちの頭の中身があやふやに出来ているのだから仕方ないのだと
簡単に片付けて上からつねに見下ろすのが当たり前とばかりに居た彼女が
いち地球人でしかない私の侵入を拒んで薄い戸板のかげに潜んでいるという
その状況が私には瞬間 彼女を愛するのにひどく邪魔なものに思われた
エリーはさらにドアノブをもう一度開かないことを確かめてから、中から
はいっていいよーという低い声をもたらした

はいっちゃいけないんだよと、他人が中に入っているときはそうなのだと、
排泄は恥ずかしいものなのだから、他人と分かち合うものじゃないのだと
ノックされたときに入っていますと合図するのは、だから入らないで、
っていう意味なのだと私は 排泄もしなければそもそも羞恥心がなさそうな
彼女に何度も口頭で言ったものだった トイレとはそういう所で
排泄している最中に音をごまかすために水を流すのと同じことで
恥ずかしいことをしていることをなるべく隠すということが
ここでは普通の人間であることの証明だから必要なんだって
言ったんだけれどエリーはそのときに入って来ていいよって言った
相変わらずしっかりとドアノブを閉めたままどうやら口にタオル咥えたまま
籠るような声でかすかに日本語とは違った声の震えを残しながら入っていいと
言った
「あんたが内側から鍵かけてるから私が中に入れないんでしょうがッ」って、
私はちょっとびっくりしたんだけど子供のときのお母さんの切れ方とそっくり
私は切れていたんだと思う 何に エリーが 殆どエリーじゃなくなってる事に

開くはずのないドアを手で抑えてみたり 外に居るひとに入って来ていいと言ったり
だって入って来ないでっていうのが普通なんだって分かっているエリーだったら
普通とされることの逆なんて言うはずがないんだ本来 鍵が壊れることなんかを
心配したりするのはエリーじゃないんだ それに少しでもエリーでない要素を持つのは
調子の悪いエリーというよりもはやエリーじゃない 私にはそんな気さえしていた
あんたが入れないからはいれないんでしょうがって言いながら 私は強くまた蹴った
殆ど脅迫だったがそれはエリーというより 私たちをこの位置に置いている現実が
私が強く蹴ることでこのみっともない擾乱が 次の瞬間結実する際にうっかりと私たちを
こことは異なる現実に置いてしまってくれるのじゃないかと期待して それで蹴っていた
それでどこへ行きたいかと言えばエリーが言っていたみたいな 目的地にのみ正確に物が
運命のためにまるで摩擦のないところで働く重力の作用のように運搬されていく世界に
私やエリーや 床でくるくると回り静止した浩明の 三人だけでも配置されないかって
期待して蹴った
エリーが叩いていたのはこの薄い壁だと実感した それにエリーは僅かにこんな隔たりの
向こうにいるために私の耳目を簡単に潰すことが出来ず代わりにこの壁を叩いたのかと
だって私に見させまい聞かせまいとするなら本来はそっちの方が手っ取り早いというのに
彼女は自ら私を守るみたいに私から自分を引きはがしてこんなところへ引っ込んだんだと
思うとそれが薄い彼女の背中みたいに思えた その薄い板が
私は愛情を傾けているものに無言で乱暴を働くときとても鈍感になる その愛に忠実に
全身を委ねようとしてしまうせいだろうと思うけど 私は気づかなくなっていた
エリーが途中から壁を叩いたり 水を流さなくなっていたということを
それでも予感とは働くものなのか ある時ふと蹴るのを辞めて待つように押し黙った
まるで背中をさすられなくなった人のようにエリーの断末魔みたいな声がしたんだ
まるきり星の声が噴水みたいになかに満ちた 

※この小説(ノベル)"きみがもう暗算が出来ないのならお釣りなんか要らないのに"の著作権はmerongreeさんに属します。

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