- 2011/11/22
- [お知らせ]
ランキングデータの調整について
- 2011/9/30
- [お知らせ]
[追記]みんなの詩のランキング不具合について
- 2011/7/26
- [お知らせ]
メッセージ下書き後送信の不具合について
- 2011/1/11
- [お知らせ]
メンテナンス延期のお知らせ
- 2011/1/6
- [お知らせ]
作:
merongree
もてあましたよ正直 ゆり子はああいう事言いだすと聞かないのは分かってたけど…
ぜんそくの発作ならテオドールのませて吸入器かけとけばそのうち ぜえぜえひゅうひゅう納まるのに
憧れだからな
本当赤い靴をはいた女の子みたいに自分でも逃れられないらしくてそれから
ずっとずっと魂が腸ねん転になるみたいにずっとその事ばっかり言っていて
魂の火傷をいやすために眼がそんな風に水分をこしらえるみたく
箪笥の隅で泣いてる
ゆり子を自然のなかに連れて行けといったのはお父さん
なんか超然とした科学の力っていうか何だろうなあ
自然のああいう鬱蒼とした感じがゆり子の内奥にある
けしからん野性みたいなものを根こそぎ焼いてくれると
お父さんは信じてるから
ゆり子を鬱蒼とした自然のなかへ 埋めて来いみたいな事
たびたび言うんだよ お酒とかそういうものと関係なしに
醒めた本心から そう思って言ってるのが何となく分かる
ゆり子を死なせたいわけじゃなかったけど
一度火のなかや水のなかにでも放り込まないと
人間どもの社会のなかで生きられないのじゃないか
そこまで弱らせないとこの社会にある多数の強い弁を
彼女ひとりで押し返すのじゃないか
そんな事を危惧してなるべくゆり子を危ないところへと
連れていく役割を果たしていたのは家族の中で私
揺れている鉄橋とか眼の中に沢山の線がついてみえるような
幻覚みたいな危険な光景へと絶えず放り込むみたいにして
連れていっていた役割をずっと果たしてきたのは私
私は私で履いていた赤い靴があった
あの子のために
あの子は ゆり子はそのたびに危険なところへ行くたび
家に帰ってきてからもしばらく眼の奥がジンジンするほど
太陽の近いところまで飛んで言っても眼をこすりながら
「わたしの心のなかに近いところまで行けた」と言って喜ぶ
この後悔を私はずっと誰にも打ち明けることが出来なかった
大なり小なり ゆり子を痛めつけて弱らせられたという風に
他人なら思うだろう ゆり子を恐ろしげなところへ誘えば
水をかぶるたびにマッチの先の火をみるたびこの事を思い出すと
でもゆり子は
「わたしの心のなかのすぐ近いところだろうと思った」と言うんだ
彼女いわくそういう光景に行くととても息をするのがらくになるから
何となく分かるんだと
ひとを突然沢山殺すひと 自分の家族をだめにするひと
そんなひとの眼にはもうずっと前から自分の手で血だらけにした
そういうひとたちがうごめいていたのだろうなっていう風に思う
人間良いものだろうと悪しきものだろうと自分の心にある風景を
無視して生きていかれるものじゃあない
何だりかんだり 食べたり飲んだり しながらその光景に接近して
願わくばその光景を完全に目の前に触れるほど造ろうとしてしまう
そのせいで罰せられたり殺されたり人間の心がないと非難されるけど
要は自分の心にあった澱をそのまま手ですくいだしてしまった
まるごと目の前の現実に持ち越してきて安堵しようとしてしまった
なんかそういう事のように思う ゆり子の場合は自分がそんな火を
つけたり誰かを痛めつけたりする以前に 他人によって建設された
そういう危険に接近することで「ああ自分の心のすぐ近くだここは」
という風に考えるように至った っていうことらしいが
ゆり子のそうした発言で私は心が人間に何を強いるかということを
どうにも無視できないほど考え続けるようになった
たとえていうなら違う星で戦争が起こって爆発してこなごなになり
沢山の隕石となって流れ出しそれには未知のバクテリアが付着してて
地球にもばらばらと投げ入れられるように飛んできたその石ころ一つ
うずくまるようにそこにあった土くれの真ん中に落ちてストライクして
次第に溶け入ってやがて地球の自転に合わせて脈打ち出したんだけど
土くれはもともと平和の時代の産物だから時に不安に早く高鳴るその
隕石の火傷の記憶みたいなものを収容できずに愚鈍にうろたえている
心が人間に何を強いるか 隕石が土くれに納まりきらずに飛び出そうとする
なんかそういう感じをつねに いやゆり子を私が自分の生活に収容しようと
考えだしたときからつねに 私はずっとずっと一人で考えている
まるでこの思考に耐えるように誰にも話さずにおいてきた事だ
ゆり子を南極に連れてったときはすこし
私も自分の中で何かを打ち止めにするだろうという予感がした
こんなカードを切るからにはすぐ後で私は後悔するか己を裁く
なんかそういう気がした
軽装でいったが
ゆり子はとんでもなくその観光が気に入ったので一カ月もしない内に
「また行きたい」
とか言いだした
私は持て余した
ペンギンいなかったじゃん、ってデリカシーのないことをいった
南極でいい思い出が出来たみたいなことを言い張ろうとしてる子に
ペンギンを楽しみにしていてしかし見られなかったことを言うのは
少しデリカシーにかけるような気がしたんだけど ううんって何か
かぶりをふった
まるで自分の心の中みたいでそれが良かったって よく分からないけど
彼女の心のなかはペンギンを観ることができない南極みたいなものかあて
これほど自分一人で苦しむほど自主的に隷属してきた心のすがたとしちゃ
妙なところで世俗的なかたちに納まりきったような気がして微妙に不満足
あの温泉地にある顔だけ出す看板みたいな感じがして
不幸というものにそういうものがあるとしたら「ペンギンのいない南極」に
顔を出すとかそういうものになるんだろうか
ゆり子は自分の心はそうだって言ってた だから南極が恋しいって
私はさっそくゆり子をころすことに決めた この決断は少し早かったが
私は早まることのその先に私の本意があるのを予知のように感じ取ってた
どのみちゆり子は自暴自棄になるだろう望みをかなえられなかったらって
思っていたら南極行きのボートが転覆したうえに海が石油まみれだっていう
ニュースを顔のうえで油の流れ出した海のように波紋つきで光らせながら
ねえ殺して埋めてくれないかっていつになく真剣に頼んできた 南極へ
南極へ行きたいんだれど月曜になればまたすぐ学校が始まるしバイトもあるし
ボーイフレンドに別れを告げないといけないし両親に書いておきたい手紙もある
れどそれらを綺麗にやり遂げるまで自分のこの願望を抑えられる力が自分にない
もし抑えられなかったら自分はそのどうしても目の前に出現しないその光景を
諦めるために自分の心を押しつぶしてあらゆる氷を海に漂流させてしまうだろう
そうなると自分の無意識を共有しているだろう家族にめいわくがかかるし
友達にも同じ破たんを迎えさせてしまいそうな奴が2、3人はいるから
そうなる前に自分の身体を潰して もう自分を心だけにして貰いたいと
そして自分の身体は南極の土に還るように南極に埋めて貰いたいのだと
それぐらいもう南極に付着して離れたくない
この星でまた戦争が起こってばらばらになるときまで私は
南極に付着してただ静かにその氷の下で脈打っていたいのだと
そこまで言われたし己の中に目覚めようとしていた兆しが
求めているネジはゆり子をころしてしまう事なのだろうと
すぐに予感のように理解できたので
あとはいつどうやってそれを実現させようか?
なにしろ私の心なかでゆり子は苦しんではいても死体ではない
だから目の前にそれを実現することはとてもむずかしく
私は産まれて初めて誰からも褒められる先延ばしをした
ゆりこゆりこゆりこ 彼女の名前をうめくように呟き
それが呪われてもう死んだ者についた符牒のように聴こえるよう
努力もしたし
彼女の言うように身体を少し潰して南極を忘れさせるようにしては?
そんな事もちらと頭をかすめたけど傍から自分がそれを決して採択
しないことに気がついて取りやめた
私の予感に匹敵するのはゆり子の言い訳のない純然たる死でしかなく
その事を私は多少の生温かい居心地のよさで感じ取るまでになって
あとはゆり子がテレビをつけてくれるのを待つだけになり
あとは背後からゆり子が一番好きな番組をみているときに
ひと思いにピストルでと思ったらバチンと音がして
私は自分のてのひらを撃ち抜いてしまって 驚いてゆり子が
振り返ったところでもう一発弾が出た
私はゆり子を南極まで連れていくための船のチケットを
取りに行くのを金曜日に取りに行くといって予約していた
けれどこの季節だし金曜日まで待っていては間に合わず
ましてやそのチケットはゆり子と二人で取りに行く筈で
こうなってしまっては本人確認みたいな事が出来ないから
単独で南極を目指すというはめになった
たまたま親切ないかめしいインディアンがいたので頼み込み
片言の英語でもって南極までボートを貸して貰える事になったが
それが成功したのはひとえに私の英語力の為なんかじゃなく
ゆり子が死体という資格を得ていたことがとても大きい
既にどの生者をもひざまずかせ怯えさせる力をもったゆり子は
確かに彼女の魂がそこにいないのだという事を証明していた
何故なら生前のゆり子はあれだけ変わった子でいながらも
誰かを恐ろしがらせたり屈服させる事など一度も望まなかった
ほんとうに独りきりの世界で生きていたんだ 「ペンギンのいない
南極」と言っていた意味がいまごろになって呑み込めた気がした
私は生前のときとつとめて変わらない優しさを彼女の上に振る舞い
もう女の子のあいだで流行し出しているポンチョを彼女にかけてやった
顔のうえに目の粗い生地がふわり振りかぶるのを私はやや大袈裟に払い
既に死体になっているんだから前がみえなくったってかまうまいという
私の心根と目の前の光景が一致してくれないよう悲壮なぐらいに努めた
割れた氷の間をインディアンのボートはゆっくりと進んで行き
ポンチョを被ったゆり子と私はまるで特典で貰えるマグカップの絵
みたいな感じで平和的に何かの均衡が取れた光景を作り出していた
鮫はいないはずなのに 鮫の背びれみたいなものが時々水面から覗き
その事で水を向けてみたいのにゆり子は彼女の心臓のように動かず
私を生前と同じように恐怖でない力 敵意のない暴力で掌握していた
ころあいの場所というものを私はどうやって決めたんだろうと思うが
鮫の背びれの位置のように何かここでしかないと思うようなところ
まるでそこにゆり子が位置することで南極が怖く見えるようなとこに
彼女を置いた
氷の裂け目と格闘した時間はあんがい少なく
脇の下に体温計を挟むみたいにゆり子をその氷の割れ目のなかに沈めると
ゆっくりと滑り出したボートの上で私はもはや何にも抵抗を感じなかった
私は一切の葛藤から自分がその船のように滑り出たのを感じたし
もう南極に彼女を身体ごと縛りつけたので彼女の夜泣きする
南極へ行きたいとの声に悩まされる必要も可能性もないのだと思った
それとふと南極の氷の狭間をみたことで氷漬けのマンモスの写真などを
ふと図鑑でみたのをそのまま連想した 犬が食えるほど新鮮だったという
その肉
その肉の手ざわりは犬の歯に簡単にちぎられるほどだったのだと思った時
私は毛むくじゃらのマンモスのような手ざわりのポンチョの事を思い出し
ふと彼女の胸にきちんと手を当てただろうか?と自分の行動をかえりみた
薄い桜の花びらのような血がするすると手品の布のように出てくるのを
太陽が地平線から出てくるときのように止められない思いで見てたけど
果たして私は彼女が化石になったことを確認してから南極へ来たのか?
彼女にとって肉体の死はただ心を自分の手元に取り戻すための手段で
一過性に終わってしかるべきものだったというのに
私はとんでもない愚かなミスを犯したんじゃないかと心配になっている
心の中の光景が現実ときちんと一致したか?私はある程度準備をした気で
けんめいにゆり子の死体とかゆり子という名前が死んだものになるように
努めていた積りだったのだけれど
現在私の心にいる彼女は氷山の一角で東のほうを見つめて
脚をぶらぶらとさせて座ったままで自分の肉体があとから
運ばれてくるのをただ待ってる
ちっとも彼女が先についている南極へは到達していないらしく
もう随分と彼女が待ちくたびれているのが分かる
ああ
思ったんだ 彼女の死はただの通過点に過ぎないのじゃないか私にとってって
あの暴発が起こる前から 死が私にとって事件になる訳じゃないのだって
予感していたけれどほんとうにその通り
私はそんな風に永久に彼女の心と身体とを剥離した状態のまま
南極の氷の下の誰の手も触れられないところで永久に保存してしまう
ということを最初から予感してたんだ
だから引き金も私にとって凄く軽かった 感覚をうしなった右手も総てこのため
彼女の細く滴るような脈を永久に氷漬けにして彼女の肉体を縛めて
彼女の元へと返さないようにするため
あやまってもあやまりきれないと思う
それはそういう結果そのものに対してより彼女をそういう
私の煩悶の象徴にするために接近していた実感があることに
誰もいかない太陽すら来ないような最果てのはじっこの
氷の下の死はたぶん何百年
樹齢何百年のスギの木がゆっくりと倒れていくぐらいの
時間はかかるに違いない
彼女にそんな遅い死を与えた私には何が下るだろう 彼女に緩慢過ぎる苦しみを与えた
私には何が下るだろうと思いながら過ぎていく日々で
足元がこのごろとても冷たい
いつかこの煩悶に匹敵する一滴の雨が脳天に命中して
私はすっかり氷解するだろう
そのときまで繰り返していればゆり子の氷山という声も
角砂糖のような童謡になるのだろうか
※この小説(ノベル)"きみが南極へ行きたいと言っていた声はもう童謡にした"の著作権はmerongreeさんに属します。
| この小説(ノベル)のURL: | |
|---|---|
| この小説(ノベル)のリンクタグ: |
※ここでは2012年5月21日のデイリー表示回数ランキングを表示しています。