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彩姫封魔伝(さいひめふうまでん) (完結作品)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(広島・瀬戸内海・中国地方) / 投稿日:'08年2月28日 20:33
ページ数:34ページ / 表示回数:11700回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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6.彩姫

「目を閉じて体の力を抜いて下さい。体は倒さずに、お腹に重心を置いて自然に立たせるように」
 随分静かなものである。板の間にあぐらを組んで座ったきり、殆ど動くことはない。夏海の冷たい手が時折触れ、少しずつ体勢が変えられる。体中に力が巡る感覚を思い描き、それに併せて、夏海が力を体の中に送り込んでくる。送り込まれた力の渦を消さないように膨らませるように、ただそれをくりかえすのだ。
 朝の八時から四時間、ぶっ通しで板の間に座っていると、お尻が冷たくなり次第に感覚が鈍ってくる。だが、弱音を吐けなかった。
 冬海達もポーズは菜々達と同じである。やることもほぼ同じなのだが、こちらは二人で向かい合い、両手を合わせたままじっと動かない。時折何か話しているが、目を閉じて押し黙っている時間も長い。冬海達は片方がもう一人に自分の持つ気の全てを注ぎ込むことで、擬似的に力の上がった状態を感じさせ、体にそれを覚えこませることで、発動する力のパワーを上げる修行をしているのだが、菜々の目には分からなかった。
「こりゃ、言ったとおりにやらんか!」
 おばばが大樹の頭をポカリと叩いた。人数の関係からおばばと組むことになった大樹は情けなさそうに「ふえぇ…」と漏らした。
「疲れましたか」
 そっちこそ大丈夫?問い返すのを止めた。
 体調が悪いのを押して付き合ってくれているのだ。菜々にできるのは、できるだけ成果を上げることしかない。
「随分効果が出ていますよ」
 昼食休憩を取るために立ち上がりながら、夏海はにっこり笑った。
 ずっと座っていただけで、菜々は起きあがることもできずにいた。バスケット部の特訓を三時間したよりも辛い。
「飯喰わないと持たないよ」
(食べたい。食べたいんだけど、動けない)
「菜々ちゃんが食べないんだったら、僕がもらう!」
 同じく始めての導引を経験した大樹が、元気に飛び起きて食卓に向かう。
 流石に前彩姫の子供だけあって、産まれながらに下地ができているのだ。まるで素人の菜々と大樹では、それだけの開きがあった。
「いっただきま~す!」
 大樹の脳天気な声と、勢いよくうどんをすすり込む音が響く。この勢いでは本当に自分の分も食べられかねない。だが、体が自分の物ではないように自由に動かない。
「おいしかったー」
 幸せそうにどんぶりを置くと、
「本当にいらないの?」
 と振り返る。いらないとは一度も言っていないのだが、まるで返事をしない(できない)ので、大樹の中ではいらないと答えたも同然となっていた。
「僕がもらってもいい?」
 どんぶりに手を伸ばそうとする大樹が、視界に入った。
(ダメ!それあたしの分だもん!ダメだって言ってるのに、あたしだってお腹すいてるのに。ダイばっかりずるい~!ずるい~お腹すいたっ!)
持ち上げようとしていたどんぶりを、ちゃぶ台の上に落とした。高さがなかったので、つゆも麺もこぼれることはなかったが、回りに座っている冬海達も箸を止め、きょときょとあたりを窺っている。
(お腹すいたぁ、お腹すいたあっ!あたしのご飯!)
びくん!と、大樹の体が揺れる。おばばと夏海も箸を止めた。
「ふぉっふぉっふぉっ。お腹はすいておるが、体が動かせんようじゃの」
「ごめんなさい。菜々さん口も動かなかったんですね」
 軽い足音を立て菜々の側に寄った夏海が、そっと右手を菜々の胸にかざすと、すっと体が楽になって、菜々は間の抜けた声を漏らした。
「素質充分と言うところじゃの。たった半日の導引でそこまでの結果を出した者はおらんよ。いや、大樹もそうじゃったか、お前達の目は確かだったようじゃの」
 ふいに誉められ、冬海と隆也は顔を見合わせた。
「ごはん~」
 菜々の方はそれどころではない。もはや目の前のうどんしか見えていない。よろけながらちゃぶ台に付くと、無言でうどんに食らいついた。
「おいしー!」
 その横で大樹も三杯目のおかわりをもらってご機嫌である。
 一心不乱に食べる菜々達には、その後のおばばの言葉は届かなかった。
「午後の導引を本気でやれば、今日中には結果が出るかもしれんの」
 聞かなくて幸いだったのかも知れない。
「異能力ってなんですか?」
 食事が終わって一番に、菜々はおばばに尋ねた。
「神通力のことじゃ。
 神に通じる力、つまり神が持つ特殊な能力。古代は天女も河童も鬼もこれを持っていたとされているが、我等はあくまで人間での、とても神通力と呼べるほどの力は持っておらぬ。賜るのは神力の欠片ほどじゃ、ゆえに“異能力”と呼んでおる」
「それで本当に鬼に勝てるんですか?」
 おばばは即答しなかった。
「保証はできぬ。鬼とは、森羅万象を操る能力を持った妖の総称。妖とは異形の知性体、物語に出てくる妖怪のようなものじゃ、人の相対するものではない」
「物語に出てくる鬼とは、ちょっと感じが違いましたけど」
「昔語りで語られておるのは人鬼、人が鬼の術にあって変形した物だと思われる」
 確かに変身した亜弥は、鬼と呼ばれるイメージにふさわしい姿だった。
「蒼炎、紅炎と呼ばれた鬼は主を持つらしい。問題なのはこちらの方じゃな。
 鬼の身分は実力主義じゃ、主は奴らよりも格段上の鬼力を持つことになる」
 おばばも庭に現れた少年の姿をした鬼から感じた力の大きさを思いだし、身震いする。
「帝の名を冠する鬼は、文字通り半端な強さではない。力の薄まった水城の者では到底勝てぬじゃろう。
 蒼炎、紅炎の名から、奴らが主は炎の鬼と推測される。炎帝と呼ばれる鬼を水城の先祖が命と引き替えに封印したという言い伝えがあるが…今の水城の力は、先祖に比べれば子供のお遊び程度。完全な紋を持たぬわしらの唯一の希望は、鬼を倒す神通力を持つという伝説の“彩姫”のみじゃ」
 菜々はじっとおばばの話を聞いていた。
 冬海や大樹も、二人を取り巻くように座って話を聞いている。
「先祖は今より能力が高かったってどうして分かるんですか?伝説として伝えられるうちに、少しずつ内容が誇大して伝えられることもあるでしょう?」
 逃がした魚は大きくなるものではないのか。
 おばばはゆっくりと、修行場の壁に飾られている一枚の掛け軸を示した。
「あれは、先祖の持っていた紋の形じゃ。バランスといい、あれが完全形であろうことは容易に想像できる。能力の強い者ほどあれに近い紋を持っているが、今では形も砕かれ、僅かな紋を残すにすぎぬ。夏海でさえあの半分近くに過ぎぬのじゃ」
 べったりと黒墨一色で描かれた紋の絵は、子供の落書きかと思うほど、シンプルだった。
 上を向いた三つ又の先だけを表すような形。
 同じ形の紋が描かれた姿絵が他にもある。若武者や、巫女姿の少女の額にも同じ三つ又の紋が描かれている。画風が違うので描いた絵師は違うのだろうが、紋だけはどれも判を押したように黒々とした墨で塗られている。
 菜々はふと額を押さえた。
「あれは、額に現れるんですか?」
 おばばは頷いた。
「“彩姫”って何ですか?彩子さんや夏海ちゃんも“彩姫”ですよね。彩姫の役目は水城家の血脈を守って鬼に対抗する血統を絶やさないことですよね?
 鬼を倒す神通力って…なんか全然イメージが違うんですけど」
「“彩姫”は、水城家の伝説の姫じゃ。『悪しき鬼復活せし時、彩姫甦りこれを葬る』と伝えられておる。
 つまり、彩姫は鬼を消滅させる能力を持っていることになる。その力こそ我が一族が欲するもの、彩姫を得るは一族の悲願じゃ。代々その彩姫を得たいと願い、家の結界を施す中心となる娘をそう呼んでおる。今ではすっかりその役目の名のように思われておるがの。彩姫の伝承は鬼も知っていると見える。先立ってもこの家にまで様子を窺いに来おった。覚醒する前に葬ろうとしておるのじゃろう」
「彩姫の額にも、あの紋があるんですか?」
「おそらく、完全な水城の紋を持つはずじゃ。
 あちらは鬼の持つ紋じゃ。特に有名な鬼の紋がいくつか描かれておる。あの中にお前さんを襲った鬼の紋があるか?」
 問われるまでもなかった。
 あの蒼炎の額に赤く浮かび上がっていた炎の様な紋が、そこに描かれていた。その掛け軸には、様々な紋様のみが赤い墨で描かれている。
「あたしが彩姫だったらいいのに。そうしたら、あたしの手で仇が討てるのに」
 漏らした言葉に、大樹は慰めるようにすり寄った。菜々の頭に冬海の手が置かれる。
「仇を討つなんて考えるな。それで早川まで殺されるようなことになったら、俺達はあいつらに顔向けできない」
「あら、水城くんが守ってくれるんでしょ?」
 菜々のおどけた言葉に、冬海は真面目に「ああ」と答えた。
 思いがけない即答ぶりに、菜々は笑いがこみ上げるのを押さえることができなかった。


※この小説(ノベル)"彩姫封魔伝(さいひめふうまでん)"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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