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彩姫封魔伝(さいひめふうまでん) (完結作品)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(広島・瀬戸内海・中国地方) / 投稿日:'08年2月28日 20:33
ページ数:34ページ / 表示回数:11700回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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4.鬼の核

「血ですか?」
 理沙子の体から血が抜かれていなかった理由を知っているかと刑事に問われ、菜々は睨み付けた。
 血の気を失って赤黒く変色していた和葉。鮮やかな血の中で息絶えた理沙子。二人の最後の姿が、静止画面の様に鮮やかに甦る。苦悶の形相を浮かべミイラ化していた和葉に比べ、理沙子は確かに穏やかな表情だった。まだ暖かかった肌の温もりを思い出す。
 涙がひとすじ菜々の頬をつたった。
 刑事の一人は中年で、ずんぐりむっくりとした体格の持ち主だ。もう一人はおそらく二十代で、ひょろひょろと背が高く、にこにこと愛想良く笑っている。刑事達は菜々を近くの公園に連れ出していた。理沙子の葬儀場から弔問客を呼びだしておきながら、笑顔の途切れない若い刑事の方が特に気に入らなかった。
「あたしが犯人だと?」
「君が犯人でないことはよく分かっているよ」
「聞きたいのは、どうして血が抜かれていなかったのかなんですよ」
「犯人でないことは分かっている?
 それなのに血が抜かれてなかった理由を聞くんですか!?
 そんなこと犯人でもなければ、分かるわけがないじゃないですか」
「分からないから聞いているんですよ」
 若い刑事は、にこにこと笑う。
「刑事さん?」
 とっさに身構えた。
「嫌だなぁそんなに警戒しないで下さいよ」
 笑顔を絶やさず、若い刑事は続けた。
「だって、無駄でしょう?」
 一歩、刑事が菜々に近寄った分、菜々は後ずさった。
「どうせ逃げられないんですから」
 風が足下から巻き起こった。
 その風に巻き込まれた刑事達の姿が変化した。
 二人とも地味な色のスーツを着ていたのだが、ずんぐりむっくりした中年は、ただでも薄かった髪の毛が全くなくなり、全身ごつごつした岩肌のような体に変化する、きつそうだったスーツがはちきれんばかりに体を膨らませている。若い刑事は平安時代の貴族のような直衣をまとい、真っ白な髪の毛を腰まで伸ばした青年に変わっていた。服だけでなく顔も体つきも変わっている。どちらかと言えば平凡な顔立ちが、薄青の直衣を来ている青年は人形のように綺麗な顔立ちに変わる。ただ、その笑い方だけが変わらない。人形のように綺麗な顔立ちに誰かを思い出し、ちょっと嫌な感じがして、ぶんぶんと頭を振った。
「どうして頭を振っているんですか」
 未だ微笑む青年の姿に、身のすくむような恐怖を感じる。
(怖い!)
 姿が変わっただけでも充分不気味である。だが、彼等のおかしさは姿形ではない。
 全身が総毛立つような、ピリピリした感覚。押し殺した殺気を含んだ気配を目の前の刑事だった者達から感じる。人間とは違う気配。
(まるで、ミズキフユミみたいな……)
 体中の毛穴からどっと汗が吹き出た。 
(……和葉の家?)
 口と喉の乾きに、菜々は生唾を飲み込んだ。逃げなければ!そう思うのだが、両足は地面に貼り付いたようにピクリとも動かない。体が小刻みに震え始める。
「近寄らないで!!」
 叫び声と同時に、白髪の青年が菜々に向けて伸ばしていた右手が、肘の部分からスパッと切断され、音を立てて足下に転がる。
「え?」
 マネキン人形のように、その切断面からは一滴の血も流れない。落ちた手も不気味だったが、手が切り落とされていながら一滴も血が流れないことのほうが不気味だった。
 重なる不気味さに菜々の口から、かん高い悲鳴が出た。
 青年は不思議そうに、なくなってしまった右肘から先を眺めていた。
「これ以上、好き勝手はさせない」
 菜々の悲鳴がピタリとやんだ。
(今の声は誰?どうしてあの人の腕が落っこちたの?)
 叫んだ瞬間だったため、自分があの腕を切り落としたような気になっていた。だがそんなはずはない。腕が切り落とされたなら、切り落とした何かがあるはずだった。
「黒炎の邪魔をしたのはうぬか」
「黒炎とは、守田理沙子を襲ったクズの事か」
 白髪の青年の間に立った冬海は、薄く優美な日本刀を構えた。
 淡々とした口調に、理沙子の名を口にした一瞬だけ、深い悔恨の念が浮かんだことに菜々は戸惑った。
 怪我をしている右足を一歩後ろに引き、日本刀を構えた。
「あの鬼なら俺がこの剣で切った」
「我等が採血の儀を邪魔して、只で済むとは思うまいな」
「鬼に凄まれて止めるくらいなら、最初からこの役目を負っていない」
 太陽の光に輝く日本刀に、菜々の背筋がぞくりと冷える。
 あの野球場で見たのはこの光ではなかったのか…
「逃げるな!」
 じりじり後退しつつあった菜々の体を、冬海の言葉が抑える。
「これ以上、俺から離れるな」
「…刑事…さん……」
 菜々はとっさに元刑事であった者達に助けを求めていた。
 その刑事自身の不審さは、頭の中から消え去っている。
 危険な存在は『ミズキフユミ』でしかなかった。
 助けを求められ、白髪の青年も虚を突かれたのだろう。一瞬の沈黙の後、その端正な薄い唇がクッと歪む。
「手っ取り早く人間の間で情報を集めるために借りた姿だったが…想像以上の効果があるようだ」
 白髪の青年はころりと声色を変え、左手を真っ直ぐにさしのべる。
「早川さんそこは危険だ、こっちに来なさい」
 その優しげな声に誘われるように進もうとする菜々を、冬海は蹴り倒した。そして真っ直ぐに白髪の青年に切っ先を向ける。
 金属的な音を立てて青年の左腕が飛んだ。やはりその傷口から血は出ない。
「騙されるな、あれは“鬼”だ」
 蹴り倒されて、広く擦りむいた両膝と腕から血がにじんだ。
「何するのよ!」
 だが、冬海は両腕を切り落とされた青年を見据えたまま、ピクリともしない。
「どうしてあたしがあんたに蹴り倒されなきゃいけないのよ!!」
 白髪の青年が忌々しげに唸る。
「自分への怒りで、それ以外の感情を消し去らせたか。だがそれも無駄な足掻きよ」
 青年は苦しげに体をよじったと思うと、その体が額から真っ二つに裂ける。後ろに控えていたがまガエルのような体型に変わった刑事の体も同じように額から裂け、中からゆらめく影のようなものが飛び出した。裂けた体は抜け殻のようにボトボトと地面に落ちる。
 白髪の青年の体から飛び出した炎は蒼く、がまガエルのような刑事から飛び出した炎は蒼黒い炎だった。それらが空中で揺らめき合い、次第に一つの塊に変貌して行く。

※この小説(ノベル)"彩姫封魔伝(さいひめふうまでん)"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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