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彩姫封魔伝(さいひめふうまでん) (完結作品)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(広島・瀬戸内海・中国地方) / 投稿日:'08年2月28日 20:33
ページ数:34ページ / 表示回数:1416回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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2.視線

「和葉ちゃんが?」
「やたら怯えてるの。和葉の家、共稼ぎで誰も居ないみたいでさ、行ってあげるって約束したのはいいけど、一人じゃちょっと心細かったから。
 ゴメンねダイ。今度お好み焼きでもおごる!」
 高校二年の男子としては、お好み焼きに限らず食べ物ならなんでもオッケーだったが、こんな風に機嫌を取らずともダイこと大和(やまと)大樹(ひろき)は充分ご機嫌だった。
 夜の九時に引っぱり出されて、なにがそんなに嬉しいのか。
「いいよぉ気にしなくて。僕を頼ってくれたってことだもん」
 頼ったというより、近くに大樹しか居なかったという方が正しいのだが、菜々はその辺りは曖昧にして微笑んだ。
 隣の家に三日違いで生まれてから十六年間、菜々と大樹は同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学、同じ高校という絵に描いたような幼なじみだった。
 名前にそぐわずちまちまと華奢な大樹よりも、菜々の方が十五センチほど身長が高い。大樹に撃退できるものなら、自分で振り払った方が遥かに早いだろう。それでも、頼りにされて(と思いこんで)喜んでいる大樹が微笑ましくて、わざわざ否定することないなと、その背中を眺めている。
 やんちゃな性格の大樹と何かにつけて姉御肌の菜々、姉と弟という関係以外の何でもない二人だった。
「僕が守ってあげるから」
 やたら張り切って大樹が振り返る。百五十センチあるかないかの華奢な体格。いまだ成長期前の、きらきらと大きな瞳が童顔に拍車をかけている。
「頼もしいじゃない」
 菜々はその頭をぽんぽんと軽く叩いた。
 以前なら和葉の家に行くくらいでお供を連れてくることはなかった。だが、ここしばらくは状況が違う。和葉が神経質になっているのも、最近TVや新聞を賑わしている『連続殺人事件』が原因だった。
「毎日テレビでやりすぎなのよ。あれを見てると自己暗示にかからない?和葉ってば超がつくほどの恐がりだし」
 行方不明になった女性が、翌日には遺体になって発見される。そんな事件が連発している。連続事件と断定されるには珍しく、事件は三日前は新潟、昨日は宮崎、今日は北海道と被害が広範囲にまたがっており、被害者にこれと言った共通点も見られない。唯一の共通点は被害者が皆、女子高生であることだろうか。
 菜々は首を傾げた。女生徒は『女子高生』という言葉で括られるのに、男子生徒は『男子高生』とは言わない。括りとしてはあるのかも知れないが、使用頻度から言えば存在しないに近い。被害者が女子高生ばかりであるのも、この連続殺人事件がクローズアップされる原因と言えるだろう。
 当初は変質者によるとされていたが、被害が続くうちに見出しに『猟奇』が加算されるようになった。遺体がミイラ化していたことを、マスコミがすっぱ抜いたのだ。
 日本の気候で、人間が一夜でミイラになることがあるだろうか?結論は否だ。正確には、全身の失血によりミイラのようになっていたのだが、マスコミはこの事件に因果関係を見つけだそうと躍起になっている。
 たとえば、被害者はウイルスに犯されており、そのウイルスが人間を一夜にしてミイラに変えてしまうのだ…という未知のウイルス感染説。過去に殺されミイラにされた少女の死体を、いかにも昨日行方不明になった少女のものに見せかけたという死体交換説。吸血鬼復活説。はては某国の生物化学兵器が日本に持ち込まれたのだなどなど。仮説ばかりが自由気ままに闊歩する無法地帯となりはてている。
「あれが遠くのことだって思えない。眠るとあの夢を見るの!」
 テレビ報道が繰り返されるたび、和葉はヒステリックになっていった。
「まだ連続って言われていないころから、妙に気にしてたのよね」
「和葉ちゃん勘がいいから」
「ダイ、その言い方止めてよ、本当になにかあるみたいじゃない」
 確かに和葉は勘がいい。第六感と言うのだろうか、テストの山などやたら当たると評判である。それを周囲が騒ぐから、本人もその気になっているのではないかと心配になる。
「菜々ちゃんも、怖いの嫌いだもんね」
 大樹がにんまりと笑う。
「怖くなんてないわよ、縁起の悪いことを言うなってことなの」
「正直に言いなよぉ、本当は夜道が怖くて僕について来て欲しかったんだ?」
「違う」
「報道番組の画面が怖くて見られないんだ」
 にまにま笑いながら大樹は続けた。
「そ…そんなことないもん」
 一瞬のためらいが、そんなことがあるのを表していた。
「素直じゃないんだからなぁ」
「あんたね、毎日毎日『目が、見えない目が私を見てる!』って電話で聞かされるあたしの身にもなってよ。ノイローゼじゃないかって心配にもなるでしょ」
「その電話を自分の部屋で聞いてたら、後ろに目が浮かんでるような気になったんだ」
「う…」
 図星を指されると人はみな沈黙するのである。
「大丈夫だよ、僕が守ってあげるから」
(頼りになりそうにはないけどなぁ)
とは思ったが、あえて口にはしなかった。
「この道でいいの?」
「うん、そこの角を右に」
 曲がって。そう続けようとした矢先、悪寒が走った。
 和葉の怯える何かの目が、すぐ側に潜んでいるような気がして振り返る。
「どうしたの」
 不思議そうに訊ねる大樹に首を横に振りながら、菜々の足取りは自然と速まった。
(本当に何かいる?まさか…ね。)
「あんたが変なこと言うからよ」
 そう言いながら、横を歩く大樹の頭をポカンと叩いたのだった。

 玄関の門をくぐったとたん、菜々の体は小さく跳ねた。
「ボコボコだ」
 両腕は鳥肌でボコボコになっていた。腕だけではなく、全身が総毛だっている。
 和葉の家の周りにだけ、異様な気配が漂っている…ような気がする。
気のせいだ。怖い話を聞くと、まるで背後に誰か立ってるような気になるのと同じ。気のせいだ。
 自分に言い聞かせながら、菜々は和葉の家のチャイムを押した。
「留守かな」
(人を呼んでおいて、そんなはずないんだけど)
 二階に一部屋だけ灯った灯を大樹が指差した。
「あそこが、和葉ちゃんの部屋?」
「そうよ、寝ちゃったかな」
 菜々は立て続けにチャイムを鳴らした。電灯の点き方からすると両親はまだ帰っていないのだろう。こんな遅くまで一人きりにするから、ますます和葉が恐がりになってしまうのだ。
 チャイムを押しながら首を傾げた。恐がりの和葉が、両親の帰りを待つのに小さな電灯一つなんてことがあるだろうか。
『一人だと怖くて、ついつい家中の電気をつけちゃうの』
和葉はそう言っていた。
 チャイムを押す手をドアノブに移した。カチャリと音を立て、ドアは抵抗なく開く。
「開いてる。こんな時に鍵を掛けないなんて……」
 嫌な予感がした。そんなことを感じている自分が嫌で、菜々は傍らの大樹の手をしっかり握りしめていた。互いに頷きあい、ゆっくり家の中に入って行く。
 大樹がドアを開ける度に、ドキドキしながら部屋をのぞき込む。
 玄関も居間も台所も、特に変わった様子はない。当然廊下もトイレも風呂場もだ。
 そしてゆっくり、二階に上がる。
 キギッ。階段のきしみにさえ、心臓がドクンと高鳴った。
 慣れない家の物影に何かが潜んでいて、今にも飛び出してきそうだ。
 寝室、客間、書斎。そして唯一電灯が灯っている和葉の部屋。全てが整然と片づいていた。荒れた様子は全くない。その整然とした部屋の様子にほっと胸をなで下ろす。
「何かあった様子はないよね」
「こんな所見られたら、僕達ドロボウだね」
 冗談めかして大樹が言う。れっきとした家宅侵入罪である。
「見つからないうちに出よう」
「こんな時間に何処に行っちゃったのかな」
 そっと玄関のドアから外に出ると、外は意外と明るく感じられた。家のすぐ側にある街灯が庭を照らしている。その庭に影が走った。寒々しい影がうごめく気配に、ゾクリとした悪寒が再び菜々を襲った。またも体中が総毛立つ。
「嫌だまた…」
「うわー、またぼこぼこだ」
 そして二人はそれを見た。
 街灯の明かりが、それを照らし出していた。
 門から玄関のドアに向かっていた時には、右側の煉瓦の壁と植え込みの木が目隠しになっていたのだ。
 家の中に一人で居ることに耐えられなかったのだ。「何かが見てる」と言ったことも、決して気のせいやノイローゼではなく…だからますます耐えられなかった。
 両親が帰るまで誰かの家にでも行っていよう、まだそんなに暗くない。そう思い立った和葉はバッグを持ち靴を履き、自分で玄関のドアを開け、鍵を閉めるよりも先に……
「イヤアアアアッ!!」
 すっかり暗くなった空に、菜々の悲鳴が響く。
 煉瓦塀にもたれかかり、植え込みの下に座るように『それ』はあった。
 若い肌からは全ての水分が失われ、全体が赤黒く変色していた。
 しかし、その顔は確かに、鈴木和葉のものだった……

※この小説(ノベル)"彩姫封魔伝(さいひめふうまでん)"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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