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朝。いつものように登校する。ここ数日、日差しが強くなった。空がきつい水色を示して広がっている。
今年は空梅雨だったなあと思う。どんより曇った日はたまにあったけれど、あまり雨らしい雨は降らなかった。
「おっはよう、鈴菜。今日も暑いね」
昇降口で茜ちゃんが元気に挨拶をしてくる。
「もうすぐ夏休みだね。鈴菜は何か予定あるの」
「……うん、アルバイトするかもしれない」
「へええ。珍しいね。あ、でも、そうか」
茜ちゃんは思い当たったように何か言いかけたあと、すまなそうに口を閉じた。
「なに、茜ちゃん?」
「ううん。鈴菜も大変なんだろうなと思って。今、親戚の家にいるんだもんね」
「あ……別にお金に不自由しているわけじゃないよ。その、そこの家からはきちんとお小遣いもらってるから」
「うん、わかってる。ただ、夏休み、ずっと家の中にいたらむしろ気詰まりなのかなって。バイトも、気分転換みたいな気持ちで、気楽にやれるといいよね」
「そうだね」
わたしはあいまいにそう返事をしておいた。
桜本の家は広いから、気詰まりだということはない。
でも自分にふさわしくない、豪華なお邸だという気持ちは確かにいつもある。
今日は半日で学校が終わる。美術部の活動も、学園祭以来、小休止状態が続いている。部長が不在なので、仕方ないかなとも思う。
教室に入ろうとしたら、深森先輩が訪ねてきた。
「ちょっといいかな。今日の放課後、よければ一緒に帰れるかなと思って」
隣にいた茜ちゃんがその言葉を聞きかじって、からかうように「よっしゃー!」とガッツポーズをするのが見えた。
わたしは赤面しながら、小声で返事をする。
「はい」
たぶん、面接の件だ。
やや深刻めいた表情だったから、これは深森先輩の仕事としての顔なんじゃないかとなんとなく感じた。
茜ちゃんがからかうような内容じゃない。面接の結果次第で、わたしは来週から深森先輩の家の事務所でアルバイトをすることになる。
でも雰囲気から察して、わたしは落ちたような気がする。
深森先輩はわたしをがっかりさせまいとして、気遣っているのかもしれない。
どちらにせよ、たぶんただそれだけの話だ。
それでもどこかでそれ以上のプラスアルファを期待したくなる。深森先輩は優しいから。
わたしは今でも、会えないくせに入院した鴇田くんのことばかり考えていて、しかもその隙間に入り込もうとしている菫崎くんのことで心を揺さぶられていて、そんな日々に疲れてしまっている。
でも深森先輩はそういったこと全部わかってくれた上で、わたしに癒しをくれるような気がする。
どこかで気づいている。このやすらぐ気持ちは、恋とは違う。
安心できる。心が安定する。深森先輩はそういう相手。
わたしは深森先輩に甘えているだけなのかもしれない。
放課後になった。
蝉時雨が並木から聞こえる。わたしと深森先輩はその中を、駅に向かって歩いていた。
※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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