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休日だった。サロンで暖炉のスケッチをしていたわたしは、執事の浅葱さんから呼ばれた。
「お嬢さま。お客さまがお見えです」
お客さま? 訝しく感じた。
「あの、お客って、誰でしょうか」
「お名前をおっしゃらないので。ただ、鈴菜お嬢さまと同じ学園の生徒の方と見受けられます」
「同じ学園の?」
そう返事をしながら、わたしは奇妙な既視感を味わった。
つい最近、わたしは同じような会話をこの浅葱さんと交わしていなかっただろうか。
眉を寄せて考え込んだけれど、記憶はあいまいなままわたしの手をすり抜ける。
……疲れているだけかな。
そんな風に思った。
「お部屋にお通ししていいか私では判断できませんでしたので、お客さまを玄関先に待たせてあります」
「あ、はい、わかりました」
わたしはソファーから立ち上がり、メガネを直しながら玄関ホールに向かう。
ひょろっと高い身長。色白の肌。ポケットに突っ込んだ手。玄関ホールに立っていたのは、菫崎くんだった。
なぜか肩から大きな黒いバッグを提げている。
「やあ。すごいね。あんた大金持ちのお嬢さんだったんだね」
「菫崎くん。なぜここが?」
菫崎くんはニッと笑って、バッグの口を少しだけ開けて見せた。中には黒いノートパソコンが入っていた。
それを見たとたん、心の奥で何かが警告する。
彼をこの邸の中に入れてはだめだ。なぜそう思うのかわからないけれど、きっとそれは大切な直感だ。
「悪いんだけど、外で話をしたいわ」
「ふうん。まあ、それでもいいけど。突然訪ねてきた俺が悪いってことかな」
「そう思ってくれてもいいけど」
「きついね、あんたも」
菫崎くんが苦笑しながら玄関の扉を出て行く。わたしも後に続いた。
だって、学園祭のときにわたしは菫崎くんに気を遣ったせいで、鴇田くんを傷つけた。鴇田くんはそのせいで大怪我までしてしまった。
だから、菫崎くんに対しては、あまり甘い顔をしちゃいけなかったんだと思う。できるだけ毅然とした態度をとらなくちゃいけない。これからも。
玄関脇の車寄せに、一台、マウンテンバイクが置いてあった。
黒いフレームに金のロゴ。かなり幅広の、トップチューブとダウンチューブ。鴇田くんのマウンテンバイクそっくりだった。ただ、妙に新しいし、通学許可シールなどは貼られていない。
「藍沢はあのデザインの自転車がお気に入りだったみたいだから、俺さ、同じマウンテンバイクを探したんだよ」
「変な人ね」
菫崎くんは相変わらず口元に笑みを浮かべたまま、マウンテンバイクを押して歩く。カラカラとリムが小さな音をたてている。わたしは歩道の内側を黙ってついていく。
※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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