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「僕はお母さんとお父さんが好きで、お母さんとお父さんも僕のことが好きだよ」
茶色と言うにはむしろ赤に近い瞳をこちらに向けて、そう言い切った。それがミモリとの出会いだ。
既に随分と前からかばう母親もろとも箪笥の角に度々頭をぶつけるような生活を送っていたユウキにとっては、ああそうですか幸せな家庭で何よりでと呪うまでは行かなくともいらついたことは確かだ。「僕」という一人称も気にいらなかった。
第一印象は最悪だったが、男女合わせても20人ほどのクラスの中で他人でいることは難しい。それに、家の話さえなければ、苦手なテストは悪い点も取るし、いきすぎた悪戯で女子も泣かすし、掃除もサボり、よく笑いよく騒ぎよく泣く、いわゆる普通の小学一年生で、どちらかといえば気が合うほうだった。もちろん、自分の家庭の話は出来なかったし、ミモリが家族の話をするといらいらするのは変わらなかったが。
変わったのは、二学期を過ぎたあたりだ。
無口になり、成績が急に良くなった。教師にしてみれば喜ばしい変化だったろうか。それに眉をひそめたのは主にクラスメイト達だけだった。自分を含む。
だから、試してみよう、とユウキは唐突に、思いついた。
前回使ったのは、休み時間の遊ぶスペースをかけて二年上のやつらとサッカーをした時だった。ボールは止められたし、試合にも勝ったが、上級生の武力行使により結局グラウンドは使えなかった。
ボールは止められた。ユウキには相手が次に何をするかが分かったからだ。その後の事は、まあ別の要因だろう。
眼球が直接テレビになったように、一瞬先の相手の行動が見える。いつの頃からかそうだった。多分、あの男があまりにも暴力だからではないかとユウキは分析している。生存本能が、能力をもたらしたのだ。たかが1、2度を逃れたところで何も変わるわけではないが、ガラス製の巨大な灰皿が額に直撃するのを防いだのも、沸騰した鍋の湯を頭から被るのを避けられたのもこのちからのおかげだった。飛び散ったかけらの上に右手を押し付けられたり、空の鍋でそのあと気絶するまで殴られたのは、まあ別の要因だろう。
見えるのは、相手が次に起こす一瞬の行動だ。十分だとユウキは考えた。尖ったHBの鉛筆をミモリの手から奪い、むっと顔を上げ睨んできた赤を見下ろして、聞く。
「お前さあ」
「家どうした?」
見開かれ、ざっと青ざめた表情越しに、確かに「視え」た。はずだった。この力で見たものが外れる事は今までなかったし、ちからをなしにしてもここまでの反応で十分予測も出来ていた。だからユウキは心底驚いたのだ。ミモリが、その一呼吸後、笑ったことに。
「僕は、お父さんとお母さんが好きだよ」
馬鹿みたいにいつも言っていたセリフが、いつの間にか少し変化していた。大人は気付いていないようだった。書き取りのノートにぽたりと水がこぼれた。でも、一度だけだった。
ユウキはこの力が百パーセントではないのだとその時初めて知った。
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