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小説(ノベル)

姉と私 (執筆中)

作:u-my / カテゴリ:ショートショート / 投稿日:'09年12月28日 18:31
ページ数:4ページ / 表示回数:4369回 / 総合評価:1 / コメント:4件

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「鹿」

私は、見事に固まってしまった。
制服の襞も、わりと自由にあちこちとはねている髪も、今まで私の歩行と共に揺れ動いていた鞄のマスコットも全てが固まってしまっていた。
普段からこの家で見慣れた風景とあまりにもかけ離れた現状が、私の目の前に存在しているからだ。部屋がめちゃくちゃに荒らされていたとか、台所が燃えていたとか、そんな生ぬるいものではないのだ。
 「・・・・・・っ」
喉が声を忘れた。大げさと思うかもしれないが、そんなものはこの光景を見てからにしてほしい。この鹿を見てから。
そう、鹿。トナカイかもしれない。鹿といっても、目の前にいるのはただの鹿ではなかった。
首から上が鹿の生物。首だけが鹿といってもいいだろう。つまり、首から下は普通の人間である。しかもご丁寧に服まで着ている。白い丸襟のついた淡いピンクのTシャツに、ゆったりとした薄緑のスカート。それは、朝に見た姉の格好であった。
私は、おそるおそる声をかけた。
 「姉さん?」
鹿のような生物の反応はなかった。顔の向きはおろか、まぶた一つも動かしていない。聞こえていないのだろうか。
その鹿が何をしているのかというと、実に何もしていないのだった。普段、私が家に帰ってきたときに見る姉の行動をそのまましていた。椅子に座り、テーブルに雑誌を広げて紅茶を飲む行動を、そのまま。
鹿のような生物の手は、鹿ではなく人間だった。よく見慣れた姉の手が綺麗に袖から伸びていた。
これを見ると、この生物が姉であると思わざるを得なくなってしまう。けれど、頭から立派に伸びたその角は、やはり姉ではなく鹿のものであった。
 「あなたは、姉さんなの」
私は再度尋ねた。この距離と声量であれば、人間でも鹿でも聞こえてるはずだ。
鹿のような生物はこちらを向いた。あまりにも無駄のない動きなので不気味に思った。
 「姉さん、なの。それとも」
 「ねえさんだよ」
低い声が言った。それは姉の声ではなく、明らかに男性の声であった。
嘘だと思った。けれど、鹿の目は、認めてほしそうにしていた。
 「嘘よ。だって、姉さんは鹿じゃないわ」
触れてはいけない言葉を出したと思った。もし、鹿でなかったらどうしよう。
 「あなたは誰なの」
私の声はたぶん、震えていたと思う。だって、怖かったから。
鹿は、ずっと黙っていた。何も会話のない時間が結構続いた。外で竿竹屋の放送が聞こえた。徐々にフェードアウトし、聴こえなくなっても鹿は黙っていた。
 「ねえ、誰なの」
また尋ねた。早く何かしらの答えが欲しいと思っていた。
 「あなたは」
 「ねえさんは、ねえさんだよ」
鹿が喋った。また、あの低い声で。
 「だから、姉さんはそんな声じゃないでしょう」
 「こえがちがうと、ねえさんではないの?」
目の前の鹿が、奇妙なことを言い出した。
意味が分からないその質問に、いよいよ頭が痛くなってきた。
 「何を、言っているの」
 「だから、こえがちがっていれば、わたしはねえさんではないの?」
 「・・・だって、姉さんの声じゃないもの」
聞きなれない声が、必死に自分は姉だと言っているように思えた。
けれど、この得体の知れない首だけ鹿の人間が私の姉だなんて、思いたくはなかった。
 「でもね、りっちゃん」
鹿が私を呼んだ。名乗っていないのに、鹿は私の名前を知っていた。何故だろう。
 「もしわたしがねえさんだったら、そういうのは、かなしいと、おもわない?」
 「え」
どきりとした。
名前を呼ばれて、綺麗な黒目でじっとこちらを見られて、そんなことを言われた。
 「りっちゃんがなにをいってもかまわないけれど、わたしはあなたのねえさんなのよ」
 「・・・・・・」
低い男の声がさらに言い続ける。
 「わたしはね、あなたのねえさんなのよ」
綺麗で淀みの無い両目が、じっと私を見据えて離さない。私は、まんまとその目に捕まった。
状況を理解しようと頭を回し続けていたけれど、徐々にそんなのがどうでもよくなってきた。
 「あなたのねえさんなの。ね、わかるでしょう? りっちゃん」
そんなに甘く言わないで。なんだかそんな気になっちゃうじゃない。
 「姉さん」
自然と、そう呼びかけてしまうじゃない。
 「姉さんなんでしょう」
横に広がった大きな耳は、どう見ても鹿のものであった。黒い鼻も、口の間から見える歯も、首から上は全て鹿であり、姉の綺麗で長い黒髪も、筋の通った鼻も、小さい口も、切れ長な目も、そこにはなかった。
でも、そんなものもどうでもよくなってしまった。
 「ああ、やっと、やっとわかってくれたのね」
感極まった声をあげ、鹿は立ち上がった。
 「ありがとう、りっちゃん。ねえさんだってわかってくれたのね」
そう言って、鹿のような生物は私を抱きしめた。私は抵抗せずに受け入れた。姉の匂いがした。
感極まった声は、低かった。けれど口調は姉のものだった。
姉はずっと私を抱きしめていた。夕刻になり、外が暗くなるに連れて部屋の中も薄暗くなってきたが、それでも私たちはずっと抱きしめあっていた。



※この小説(ノベル)"姉と私"の著作権はu-myさんに属します。

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この小説(ノベル)へのコメント (4件)

mAsAo

'10年4月16日 00:47

この小説(ノベル)を評価しました:深い

だいぶ前からこのノベルに投稿しようと思ってました。
受験が終わるまでは登録してもあんまり参加できそうになかったので、こんなに遅くなってしまいました。スミマセン。

三つとも不思議なストーリーでなんとも言えないんですが、なぜか心にこびりつく様に長いこと気になってたんです。
日常と空想がなぜか自然に混じり合っていて、読んでいると心が静かになる、というかノベルの世界観が寸分足りとも完結に創られているように感じました。
だいぶ前の投稿に対してですが、コメント見てもらえたら光栄です。

u-my

'10年4月16日 18:21

こんにちわ。受験勉強お疲れさまでした。
前から気にかけてくださったようで、ありがとうございます。

非日常な出来事が、世間で当たり前な光景になったらいいなあ、という妄想の産物ですね。(笑
「何故か気になる」ものを作れたらなと日々思っているので、そう言っていただけるのは本当に嬉しいことです。ありがとうございます!

これは短編を気が向いたときに書いてつらつらupしていこう、というつもりで書いているものなので、今後も増えていく予定です。
また機会があったら気にかけてくださると嬉しいです。
コメントありがとうございました!

mAsAo

'11年6月13日 02:30

更新されてたんだ!

ノベルは最初の投稿日しか表示されないので覗かないと分からないんですよ〜
いっそ連絡くださいω‐笑


姉と私、この微妙な距離感と絆みたいなのが男やってると分からないので羨ましくも感じました。(姉はいますが姉と弟はまた違います)


u-myさんは人やモノの形と心の間にある摩擦みたいなものを伝えようとしているのでしょうか。鹿や手の話にも感じたことだけど。
あるべき形、理想の形、みたいなのが現実には存在していて、知らず知らずに心や人との繋がりまでも浸食されかねない、みたいなことを言っているような気もします。
って、つらつら書いていることが実は感想でなくて自分が日頃思っていることだったりもして(笑)


>そんな男のせいで、姉がただの人形になってしまうだなんて。
なんだかとても、許せない気がした。

ここがなんとなく象徴的に感じました。
そんな男のせいで、何気ない一言で姉がただの人形になってしまう。
なんだか妙にリアルでぎゅっと締め付けられます。
本当に些細な一言で自らのあり方や形を不自然に歪めてしまう人が実際にいるから。
ラスト、姉がマネキンにならずにすんでよかったです。
私は姉の安定剤みたいですね♪

u-my

'11年6月16日 23:34

すみません、ひっそりこっそり、追加してました。(笑
この仕様、ショートショートには向かないんですね・・・悲しい。。。

「伝える」どうこうより、ただ書きたいものを書いて公開しているだけなのですが。。。(^^;
非日常的な物事を、日常の中に出来るかぎり溶け込ませて表現したい、というコンセプトで今は書いております。だってただの作り話だから!
少し不思議で、不気味で、だけど人物が思うことは普段の私たちと同じ。みたいな?
ちょっと言葉にできないんですが、不思議なお話として読んでくれればそれでいいです。
「マネキン」に至っては、ふつうのお話になってしまったので、自分でもちょっとびっくりしてます。ふつうのお話書ける! と大発見でございました。

ああ。
ちなみに、わたしに姉はおりません。(笑

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