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……はあ。
わたしは今日、何度目かのため息をつく。
「どうしたのよ。部活行かないの」
茜ちゃんが帰りの仕度を整えた状態で、わたしの顔を覗き込んできた。
教室内のざわめきがわたしの周辺に戻ってくる。どうやら茜ちゃんはわたしを迎えに来てくれたらしい。
日直の子が黒板をきれいに拭いているのが見える。掃除当番が数名形式的に教卓周辺を箒で掃いている。
放課後の、いつもとあまり変わらない光景を感じる。
ちらりと鴇田くんの席を見た。教室の隅の席。もちろん鴇田くんはいない。今日、鴇田くんは欠席だった。
ときどき鴇田くんは連絡なく学校をサボる。だから誰も何も気にしない。
……わたしも、何も気にする必要はないんだろう。そう自分に言い聞かせる。
「茜ちゃんこそ、デートの時間に遅れちゃうんじゃないの」
「今日は5時まで暇なの。美術部、顔出してもいいと思ってたんだけど。行かないの」
「あー、うん……」
気のない返事をしてしまった。
昨日、執事の浅葱さんにまで言われてしまったことが、思いのほか重荷になっているらしい。
結婚相手を、早く邸にお連れください、と。
ゴールデンウィークにデートの予定などあるはずもなく、わたしはあの邸内でスケッチばかりしていたから、そう言いたくもなったのだろう。
使用人たちは今まで口には出さなかったけれど、結婚するなら恋愛結婚がいいとわたしが弁護士さんに啖呵きったことを、きっと知っていたのだろう。
そんなえらそうなことを言っておきながら、もうひと月以上が過ぎてしまった。
「なにか悩みごと? 相談のろうか」
茜ちゃんなら恋愛経験が豊富そうだから、何かいいアイデアでもくれるだろうか。
「ええと。うん、あのね」
わたしは思い切って口を開くことにした。
茜ちゃんが姿勢を正したりする。
どこから説明しよう。家の事情は、学園の誰にも話していない。
茜ちゃんにも、桜本家のことは隠していた。
ただ単に、母親が亡くなってから遠い親戚に引き取られたので、少し通学に時間がかかるようになった、という説明でごまかしてしまっている。
本当は4月頃すぐに正直に話していればよかったのかもしれない。
でも夏までに誰かと婚約しなくてはいけないなんて、そんな恥ずかしいことは、茜ちゃんにも言いたくなかった。
「ええと、だからね。……恋がしたい」
「はあ?」
茜ちゃんは目を丸くした。そのあと思いっきり吹き出してケラケラ笑い出す。
「ちょっと。笑わないでよっ」
「だって。ほんとにあんたって、バカじゃないの」
わたしはあまりの言い草に、頬を膨らませてむくれた。
「真剣に話したのに、ひどい」
「真剣に訊いたのに、ひどいのはそっちでしょ」
「なんでわたしがひどいのよ」
「あんたねえ、恋がしたいって望んで、誰かがポンと空から恋心をプレゼントしてもらえるとでも思ってたの」
「そんなことは思ってないけど」
※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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