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「藍沢鈴菜さま。到着しましたので、起きていただけますか」
低い声を耳元に感じて、はっとする。
あわてて顔を上げ、周囲を見回した。車は大きな洋館の玄関脇に横付けになっていた。
いけない、いつの間にか後部座席で眠ってしまっていたようだ。
後部座席?
母の車ではない。もっと高級な自動車だ。皮張りの手触りだし、車内が広い。
これ、誰の車……?
頭がなんだかぼうっとしている。
奇妙な夢を見ていた気がする。
紫に歪む空と、揺れる大地、降り注ぐ火の玉。まるでこの世の終わりのような。
わたしの額に汗がうっすらたまっているのがわかった。
夢の中に母が出てきたような気がするけれど、そのあたりはよく覚えていない。
ただ、心臓を掴まれるような恐怖が、形のないままわたしの内部に残っている。
夢なのに、少し手が震えている。恥ずかしいと思った。
わたしは深呼吸して呼吸を整えた。
スーツ姿の男性が車の扉を開けて、わたしに外に出るようにと促している。
「ごめんなさい」
わたしはスカートの裾を直しながら、車から降り立つ。
ええと、ここはどこだっただろう。
眠っていたせいで、記憶があいまいになっている。
わたしはずれたメガネの位置を直す。焦点が先ほどよりもはっきり合う。
「桜本家に到着いたしました」
「あ、はい。ありがとうございます、弁護士さん」
弁護士。そうだ、目の前にいるこの男の人は、弁護士さんだった。
母の葬儀のあと、わたしの父親の件で訪ねてきた人。
この街の高台に瀟洒な洋館が建っていたことは知っていたけれど、そこがわたしと関わりのある場所だなんて、今まで考えたこともなかった。
もちろん母も何も教えてくれなかった。
弁護士さんは慣れた様子でわたしを邸内に案内する。
数名のメイドさんが玄関の脇に並んでいて、わたしの姿に向かってお辞儀をした。
……信じられない。本物のメイドさんがいるお邸って、日本国内に存在したんだ。
靴のまま入っていいのだろうか。
そんなことを考えながら、おずおずと柔らかいじゅうたんを踏みしめながら足を進める。
※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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