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私立三條高等学校。府中町の中心に立つ、ごく普通の進学校である。
広島駅に程近い所に建つ校舎は電車からも良く見える。
その校舎の三階。
朝の教室。
まだ寒さの残る中、部活の朝練を終えた生徒と普通に登校して来た生徒が集まりだす。
その中には道場で拳を振るっていた少女、東子の姿もあった。
「おはよう、ねえ東子ぉ、聞いてよぉ」
「何よ」
東子は教室に入るなり、頭を横にして机に突っ伏していた眼鏡の女子生徒から話しかけられる。
東子は自分の机に鞄を置いてから、未だぐったりとしている少女の横に立った。
「それで何よ?」
少女は机に突っ伏したまま東子に呟く。
「実は今朝ね、恐ろしい事があったの」
どんよりとした暗い表情で語る。
「朝起きて学校行こうと思って、制服を着たのね」
「うん」
「そしたらね、三月より制服が縮んどったんよ……」
「それは……」
恐ろしげな顔をする少女と呆れる東子。
「言わないで、分かってるから……」
そして少女は頭を振る。
「どうせ春休みだからってダラダラしてたんでしょ」
「そうなんだよねえ」
お互い別々の意味で溜息を一つ吐く。
「なんかこう、腰に来たって感じ? 春休みのツケが」
黒いカーディガンの腰の所に手を当ててそこを見つめる。
「もったりしてるっていうかさあ」
ちらりと横目で少女は東子を見る。
「良いよね東子は、あんましそういうので悩んだ事無いでしょ?」
「んー、そうでも無いけど?」
東子の体には極端な細身では無いが全体的にスッキリとした印象がある。
パッと見た感じは普通に見えるが、余計な物が付いて無いバランスのとれた体はある意味でスタイルが良い。
腕を組みながら後ろの机に東子は腰掛ける。
「三月の頃に比べると、私もちょっとねえ、増えてる……かな」
「えーそうは見えないけど」
少女は体を起こして椅子ごと東子に向き直る。
「何もやってないんでしょ? ダイエットとか」
「特には……してないかな。たまに走ったりするくらいで」
「運動かあ、駄目、その時点でハードルが高いよ」
羨ましげに東子を見る少女だったが、ふと何かを思い出す。
「そういや東子、新しく来た養護の先生見た?」
「え? 見てないけど?」
「さっきさ、職員室に入る所見たんだけどね」
そこまで言った所で新たに教室に入って来た人影に視線が向き、その女子生徒に二人は手を振る。
「おはよっ。由佳っち」
「おはよー智ちゃん」
小柄な少女が二人に手を振る。
「ねえねえ、由佳っち、新しい養護の先生見た?」
智ちゃんと呼ばれた少女、智が机に鞄を置いてきた小柄な少女に話しかける。
「ん? まだだけど、どんな人なの?」
「何かすっごいの」
ぐいっと智は身を前に乗り出す。
「格好良いの」
「女の人……だよね?」
小柄な少女は首を傾げる。
「なんていうかねー、シャープ、っていう感じ?」
東子も首を傾げる。
「ゴメン、ちょっと分かんない」
「えー? まあどうせ全校朝礼で分かるけどさあ……おっと」
智は時計を見て椅子から立ち上がる。
「そんじゃ、今日の放送当番私だから、行ってくるね」
「良いなあ、放送部は。放送室でダラダラ出来て」
「特権ですから」
東子に対して笑ってみせると、眼鏡の位置を直して智は体育館に向かうべく教室を出ていった。
新学期の初日に行われる、全校集会が始まるまでの少しの間。
散らばる生徒達で騒がしい体育館の中に東子と、由佳っちと呼ばれた少女がいた。
「んーーにゃっ」
大きく体を伸ばして奇声を上げる。
『鋼 東子』(はがね とうこ)それが彼女の名前であった。
「まったく、新学期になったからって何か変わるわけでも無いのに、いちいち全校集めてやんなくたってさー。たいぎいったら、ねえ由佳?」
「何で? 私達だって三年になったよ?」
由佳と呼ばれた少女は東子の隣で見上げるように首を傾げている。
「別に学年上がってもウチはクラスが持ち上がりだから新鮮味無いじゃんか」
「新入生とか」
「知った顔があるわけじゃないし、興味無し」
「受験とか」
「聞かなかった事に」
「あ、ズルい」
至って普通の会話。
前髪に隠れかけた黒目がちな東子の目は大きく、人懐っこい犬のようでもある。
後ろ髪は首の裏も隠れない長さで活発さが見て取れる。
有り体に言えば、東子も由佳と呼ばれた少女も一般的には可愛いと呼ばれる顔の作りをしている。
ただ、人目を引く程に特別では無く、目立っているわけでも無い。
『鋼 東子』珍しい苗字だ、それぐらいしか感想の出て来ないこの名前。
そこに最近特別な意味が出てきた事を知っている人間は余り多く無い。
「東子ちゃん、手、怪我してない?」
「うん、昨日練習でぶつけちゃってさ」
昨晩道場の中で見せた激しさも今はどこに隠れているのか、東子は全校生徒の集まる体育館の中に紛れていた。
「由佳は今日バイトだっけ?」
「うん、そう」
「そっかー」
東子は腕組みをすると考え込む。
「おとなしく勉強でもしときましょうかね」
「ゴメンね、今バイト先の人が少なくなっちゃったから」
「春だから?」
「そう、色々と出会いと別れの季節なんだよ? 春は」
「大変だねえ」
腕を組んだまま東子はふっと視線を上げるとその動きが止まる。
「あ」
「どうかした?」
「確かに、そういう季節かも」
「新しい出会いの?」
「んーそれはちょっと違うかも」
由佳が東子の視線を追うとそこは教師達が並ぶ場所。
その中の一人は由佳には見た事の無い女性。
「突然の再会ってやつかな」
そう言って東子は楽しげに笑った。
誰と?
由佳はその言葉の意味を聞こうとしたが、スピーカーから智の声が聞こえ、朝礼が始まったので東子に聞く事も出来ず、ただ首を傾げるばかりだった。
※この小説(ノベル)"鋼鉄少女"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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