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スパアッンッと、鋭い音が鳴った。
続けて何度も音が鳴る。
その音は室内から、開け放たれた窓を通って路上にも届き、通行人や、バス亭で次の便を待つ人達も思わずそちらを見てしまう。
「次、ワンツーから左フック」
また鋭い音が鳴る。
ミットにグローブが叩きつけられる。
その部屋の中は三月、しかも夜だと言うのに暑かった。
青いマットが床と壁に張り巡らされている。
部屋の奥にはバーベルや、ベンチプレスといった運動器具が並ぶ。
更にその奥、壁を敷き詰める鏡は白く曇っていた。
部屋に漂う熱気のせいだ。
室内には、人が動き生み出す湿った熱気がむうっと漂っていた。
熱気の元、壁に沿って座った男達のシャツは例外無く汗で濡れている。
湯気が体から立ち昇っていく。
高校生くらいの坊主頭。
線の細そうな中年男。
小太りの大男。
健康そうな日焼けをした青年。
がっちりとした筋肉を持つモヒカン頭。
男達には見事な程、共通点が無い。
広い部屋だが、運動器具が置いてある場所と、吊り下げられたサンドバック、更に壁際に人が座れば自由に動けるスペースはそれほど余っているわけでは無い。
マットの中央にはミット持ちとパンチを打つペアが二組。
その二組だけでも自由に動き回れる広さは無い。
片方の組はドレッドヘアーで腕には刺青、背の高い男が拳を振るい、ミットを持つのは高校生くらいの少年。
男の思い切り放ったパンチがミットを叩く。
重く叩きつけるような音。
鋭くは無い。
パアッッンと、また弾ける様な音。
その音を出したのはもう一つの組。
ミットを持つのは男、拳を振るうのは女。
左、右とパンチを打つ。
迫力に欠けてはいるが、伸びやかに、キレのある動きを見せる体は少女のものであった。
打ち抜くパンチ、踏み出すステップ、動作一つ一つが若さに満ち溢れている。
少女がパンチを打ち終わった所に合わせてミットを着けた男の左手がスッと前に出る。
少女は軽く身を屈めるダッキングでその手をかわし、同時に左の拳を振るう。
音が鳴り、少女の拳がミットを打ち抜いた。
音の余韻が消える間も無く再び少女は一連の動きを繰り返す。
その身長は特に高いわけではない。
体に張り付く赤いラッシュガードが見せる体のラインもどこにでもいるような普通の女の子に見える。
しかし良く見ればその体は引き締まった作りをしていた。
大きく膨らんでこそいないが十二分にしなやかさと強さを溜め込んだ筋。
それを纏った体がスピードに乗って跳ねる。
加速していく体はどこからそのエネルギーを生み出しているというのか。
同じ動きを何度も繰り返していく。
左、右、かわして左。
大きく音が鳴る。
息が上がり、汗が流れてマットに散る。
たっぷり三分は経ったその時、タイマーからブザーが鳴った。
二人は動きを止めて両手を下ろす。
「ふーうっ!」
グローブをはめたまま、少女はショートの髪を掻き揚げて大きく息を吸い込み、吐き出す。
「ほら東子(とうこ)、今日で春休み終わりだろ、もっと張り切っていけ!」
「へーーい」
東子と呼ばれた少女はミットを持つ男の言葉に半ばヤケクソに返事をしながら壁際に置かれたペットボトルを持ち上げる。
器用にグローブのまま蓋を開けて水を軽く飲む。
「よっしっ」
蓋を締めなおして床に置き、再び拳を構えて男と向き合うと丁度インターバルの時間が終わり、ブザーが鳴った。
※この小説(ノベル)"鋼鉄少女"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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