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鮮やかな季節 (完結作品)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(フリー) / 投稿日:'08年3月3日 22:17
ページ数:6ページ / 表示回数:1389回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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3.今年の夏祭り

 今年の夏祭りも美咲が俺らを迎えに来た。
 「あれ、雅紀まだ寝てるの?」
 「朝からバイトで疲れ気味だったから少し休んでるみたいだよ」
 「そっかぁ。起こしちゃ悪いかな?」
 「平気でしょ。午後6時に祭りに行くって約束してたんだし」
 美咲は大人っぽい紺色の浴衣を着ていた。髪はアップにしていて、化粧もしている。
 お邪魔します、と言ってから下駄を脱ぎ、2階へ上がった。俺は美咲の後に続いた。
 兄貴の部屋はいつ見ても片付いている。
 「意外。綺麗にしてるのね」
 美咲は感心していた。
 「そういえば3人で遊ぶときは大抵、外だったよな」
 「うん。部屋を見るのは初めてだよ。家に上がっても1階だけだったし」
 机の上には、高校の課題集のページが開かれたままになっている。ノートには丁寧な文字で課題の答えが書かれている。答え合わせもしてあって、間違ったところにはきちんと赤ペンで詳しく解説が書いてあった。
 美咲は、ベッドで寝ている兄貴の肩を軽く叩いて起こした。
 「祭りに行くよっ」
 「え? もうそんな時間?」
 目をしばしばさせながら起きて、兄貴は財布と携帯電話をポケットに突っ込んだ。
 「じゃあ、行きますか」

 相変わらず兄貴は自分のペースで歩いている。高校に入学してから身長がぐんぐん伸びた兄貴は、更に歩くのが速くなった。
 ――女の子がいるんだから歩くペースを考えろよな。
 美咲は浴衣に下駄、歩きにくそうだ。俺は美咲のペースに合わせてゆっくり歩いた。
 兄貴との距離はだんだんと大きくなったが、兄貴は気付いたのか立ち止まって俺らが追いつくのを待った。また歩き出したときは、ゆっくりだった。
 
 出店が立ち並び、多くの人達が祭りを楽しんでいた。
 兄貴は「何か食う?」と俺らに聞いた。
 「私は苺味のカキ氷。あと、たこ焼きとりんご飴食べたい」
 「俺はいいや」
 さいふの中身が少ないことは兄貴にはお見通しだったらしい。「俺が買うから何がいい」ともう一度聞かれたので、素直に俺も苺味のカキ氷を頼んだ。苺味のカキ氷は昔から美咲のお気に入りで、それに影響されて俺自身も好きになった。
 兄貴が買ってくれたカキ氷を俺と美咲は受け取って、河川敷の方へと進んでいった。
 人が多いので余計に蒸し蒸しするが、この時間になると涼しい風が吹いてくるので人波を過ぎると結構快適だった。
 「まだ明るい」
 美咲は空を見上げながら呟いた。夏はこの時間でも薄暗いだけで花火をするには早い。
 「花火は8時頃からだから、あと1時間位あるな」
 兄貴は携帯電話の画面に映っている時計を見ながら言った。
 「とりあえず食おうよ」
 河川敷に着くまでに、いくつかの出店でお好み焼きやたこ焼きやじゃがバターを買った。全て兄貴のおごりだ。
 「そうだな」
 ビニール袋から、お好み焼きなどが入ったパックを取り出し食べ始めた。
 食べながら、いつまで3人で夏祭りに行けるんだろうと思った。もしかしたら、今年が最後かもしれない。いつまでも変わらないなんて保障はいつだってないから。
 美咲が兄貴に告白したのは今までと同じでは満足できなかったからかもしれないから。

 「裕紀もたこ焼き食べる?」
 少し寂しい気分になったが、隣でたこ焼きを笑顔で勧める美咲を見たら、そんな気分も消
えていった。

 花火が始まった。
 兄貴は「りんご飴を買ってくる」と言って、出店の方へ行ってしまった。
 2人きりになったが、まだ告白はしない。せっかく一緒に花火を見ているんだから楽しんでおこうと思っている。
 「綺麗だねぇ」
 美咲は笑顔で続けた。
 「雅紀も早く帰ってくればいいのに」
 何気ない一言なのは分かっているので、気にしないようにした。
 「だよな」
 同意したが、口先だけだった。兄貴を邪魔だとは言わないが、俺は美咲と一緒にいられれば、それでよかった。
 何十分経っただろうか。兄貴がりんご飴3つを手に持ち戻ってきた。兄貴の後ろには、ゆるやかに髪を巻いた可愛い女の子が立っていた。
 「加奈子ちゃん……」
 「久しぶり、美咲ちゃん」
 美咲に加奈子ちゃんと呼ばれた女の子は、にっこりと微笑んだ。
 「私、おばあちゃん家にまたお世話になることになったんだ。こっちに来たばかりで、お祭りに行けば知ってる人に会えるかなぁって思ってたら本当に会えちゃった」
 りんご飴を買いに行く途中、声を掛けられたらしい。兄貴と話が弾んでいる。

 「美咲?」
 突然、立ち上がり「花火は飽きたから帰るね」と行ってしまった。
 「兄貴、美咲のりんご飴」
 手を出すと美咲の分と俺の分のりんご飴をくれた。それを受け取って、俺は美咲を追いかけた。
 「美咲!」
 走ったら、すぐに追いついた。美咲はぼんやりと歩いていた。
 「裕紀……」
 「これ、美咲の分」
 美咲は裕紀から、りんご飴を受け取った。
 しばらく2人とも無言だったが、出店がなく人通りが少ないところまで歩くと、ぽつりぽつりと話し始めた。
 「加奈子ちゃんは小学生の頃から雅紀と仲がいいの。悪い人じゃないのは分かってるんだけど雅紀といるところを見ると落ち着かない。ムカムカする」
 「うん。美咲は兄貴がずっと好きだったんだよね」
 美咲は俺を見た後、視線を落として頷いた。
 「気付いてたんだ……」
 「ごめん。兄貴から聞いたんだ」
 「えっ?」
 「夏休み入る前に俺、兄貴の学校にいただろ。そのときに、その、見ちゃって……。兄貴が悪いわけじゃないんだ、俺が兄貴に色々聞いちゃって……その、えーっと」
 「そっか」
 「ごめん」
 ううん、と美咲は首を横に振った。悪いのは私の方なの、と言った美咲の目には今にも零れ落ちそうな涙の粒が溜まっていた。
 「私ね、いつまで雅紀と一緒にいられるのか不安だった。だから告白して彼女になって、安心したかった。……告白してみたら急に返事が怖くなった。雅紀、困ってる感じだった。キス……わざとしたの。返事が出来ないように。雅紀は優しいから突き放したりできないって思ったから。最低でしょ」
 自嘲気味に言った。
 ――自分勝手な行動。でも、それだけ美咲は本気で好きなんだろう。告白して、いい返事がもらえなかったからといって相手への想いは消えない。行き場をなくした想いはどうすればいいのか、美咲にはきっと分からなかった。
 「私って臆病だわ。こんな自分が大嫌い……」
 「でも俺は、美咲の弱いところも全部が好きだ」
 俺の口からスラリと言葉が出た。言ってから、だんだんと顔が熱くなり、手に汗をかく。
美咲は動きをとめて俺を見た。
 「ご…ごめ」
 「兄貴が好きなのは分かってる。ごめん、こんなこと言って困らせてさ」
 
 そのあとは、やっぱり気まずくなった。
 夏祭りの会場は、俺の家のほうが美咲の家より近かった。俺の家の近くまで来たところで「送ってく」と言ったが、やんわりと断られた。
 美咲のりんご飴も俺のりんご飴も手付かずのままだった。

 兄貴はしばらく経ってから帰ってきた。
 「ずいぶん遅かったね。美咲に連絡いれたら?」
 美咲は兄貴と仲のいい女の子――加奈子さんに嫉妬したから席を立った。兄貴はそれを分かっていなかった。
 「なんで?」
 「なんでって……」
 兄貴がこんなに鈍かったなんて。
 「あとさ」
 言うかどうか迷ったが口にした。
 「告白して振られた」
 「……そうか」
 「だから俺にもう遠慮しなくていいよ」
 兄貴は優しくしているようで結構ひどいことをしてくれる。
 「何言って……?」
 兄貴にはハッキリ言わないと通じないらしい。
 「だから! 兄貴が美咲のこと好きなことくらい分かってたんだよ、前から、ずっと」
 なんで美咲は俺じゃなくて兄貴を選んだのか。全然分からない。俺を選んでくれたら兄貴みたいに不安にさせたりしない。大切にする、絶対。
 「もう俺に遠慮したりしなくて済むんだよ、よかったよな、俺が振られて」
 美咲のことを想うたびに兄貴の無神経さが癪に障る。
 兄貴は俺の気持ちを知っていたから、美咲の告白に返事をしなかった。それは俺のことを気にかけてくれた兄貴の優しさだったかもしれない。けれど俺にとっては優しさでも何でもなかった。
 兄貴は馬鹿だ。
 「美咲も俺も自分の気持ちに嘘をつかなかった! なのに、なんだよ。兄貴は誰も傷つけないようにしたいのかもしれないけど、そういう態度は俺らを馬鹿にしてるって、いい加減気づけよ!」
 もう自分の気持ちに嘘をつかないでほしい。
 兄貴は感情的になった俺に驚いている様子だったが、言いたかったことは通じたようだ。
 「……ごめん裕紀。俺、馬鹿だったな」
 「……おう」
 これでいいんだと自分に言い聞かせた。
 失恋した自分がなぜ恋敵の兄貴の背中を押すことになるのか考えたら、やっぱり美咲が幸せになってくれるのが一番嬉しいと思った。その相手が自分じゃないのは悔しいし悲しいけれども。
 「もう話は済んだかしらぁ~」
 俺も兄貴もギョっとした。
 ほほほほ、と笑いながら母親がリビングに入ってきた。
 ――もしかして。
 「き、聞いてた?」
 ほほほ、と笑う母。
 「青春ね~」
 ほほほ、と笑いは止まらない。
 俺と兄貴は顔を見合わせた。きっと今の俺と同じ気持ちだろう。
 ――恥ずかしい……。



※この小説(ノベル)"鮮やかな季節"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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