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鮮やかな季節 (完結作品)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(フリー) / 投稿日:'08年3月3日 22:17
ページ数:6ページ / 表示回数:回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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2.夏祭りの思い出

 キスを目撃した日から1週間が過ぎようとしていた。
 あれから兄貴とは何もなかったかのように、今までと変わりなく接している。元から、特に仲がよかったわけでも悪かったわけでもないので、会話はさりげないものばかりだ。
 「新聞とって」とか「テレビのチャンネル変えてもいい?」とかそんな感じ。
 あれから考えて考えて考えた末、美咲に告白することを決意した。
美咲に告白すると決めたことは、兄貴に話していない。話すつもりもない。
 兄貴が美咲に告白されたからって俺が首を突っ込むのはおかしい。告白されたのは兄貴、告白したのは美咲。だから、それは2人の問題。だからもうあの日のことは根掘り葉掘り聞かないことにした。もう十分、状況は説明してもらったつもりだ。
 だから俺が告白するのは、俺と美咲の問題になるはずで、兄貴に美咲の告白と一緒に考えてもらいたくないと思った。だから言わない。兄貴も聞かない。

 「そういえばさ、美咲が今年も3人で祭り行こうってさ。行くよな?」
 読んでいた新聞から少し顔を出して、兄貴は俺に聞いた。
 「行くよ」
 去年も一昨年も、その前も、3人で毎年一緒に行った地元の夏祭り。8月の第一土曜日に開催されている。

 兄貴と美咲が小学4年生で俺が小学2年生のときの祭りの日、思い出すのは出店の灯りと美味しそうな食べ物の匂い、大勢の人々。兄貴は途中でクラスメートと会って、俺と美咲をほうって楽しそうに話しこんでいた。美咲が「もうすぐ花火が始まっちゃうよ」とふくれて言ったのに兄貴は美咲の様子に気付かないで「先に行ってていいぞ」と言った。そんなやりとりを近くで見ながら、兄貴は先に行っていいと言っているのに美咲はまだ兄貴を待つつもりなのかと、待っているあいだ退屈した。
 今思えば美咲は昔からずっと兄貴が好きだったのかもしれない。
 けれど小学2年生の俺にとって美咲は近所の優しいお姉ちゃんに過ぎなかった。

 夏祭りに3人で行くのはこの年が初めてだった。
 兄貴は普段着で、俺は兄貴のお下がりのじんべいを着た。
 美咲が家のインターホンを押して「はやく行こうよ」と急かした。美咲は赤い生地にうさぎが描かれた可愛い浴衣を着ていた。
 お母さんは兄貴に「裕紀のこと、ちゃんと見るのよ。よろしくね」と頼んだ。そのあと、迎えに来た美咲にも同じことを頼んで、美咲は笑顔で答えた。
 ――なんだよ、みんなして。僕はもう小学生になったんだから、そんなに子ども扱いしなくてもいい子でいるんだからね。
 そんなことを思っていたような気がする。
 母の心配は案の定、現実となった。
 兄貴がクラスメートと話し終えて、花火がよく見える河川敷へと3人で向かう途中の出来事だった。
 これから花火が始まる時間となると祭りの人口密集度は最高潮に達した。
 兄貴は自分のペースですたすたと先に歩いてしまう。身長の低かった俺は既に兄貴がどこにいるのか全く見えない状態になっていて、頼りになるのは美咲と繋ぐ右手だけだった。
 しかし、わらわらと溢れかえった人波にのまれ、美咲と繋いだ右手が離れてしまった。
 美咲はあっという間に見えなくなっていた。人々の話し声が集まると、俺が今にも泣きそうな声で「美咲ちゃん」と呼んでも美咲まで届くはずもなく、人波に流されるまま辿り着いたときにも2人の姿は見当たらなかった。
 花火は今始まったところだった。黒いキャンバスに輝く色とりどりの花が咲くたびに周りから歓声が聞こえたが、そのときの俺には無意味なことだった。
 綺麗だなんて思えなかった。咲いたと思ったらすぐに枯れてしまう空の花は頼りなく見えただけだった。
 自分は迷子になったと状況を理解したら、涙が溢れてとまらなかった。
 うわぁぁぁんと声をあげて、ただ泣くばかりだった。
 行き交う人々の視線が俺に向けられた。そのまま足をとめなかった人々も多かったが、何人かは俺の近くまで寄ってきては、しゃがんで「ボク、どうしたの」「おうちの人は」と、やたら質問ばかりするから混乱していた俺は泣くだけで何も答えられなかった。
 しばらくして「裕紀!」と美咲が駆け寄ってきた。視界は涙でぼやけてハッキリと見えなかったけれど、派手な赤い浴衣と聞きなれた声ですぐ美咲だと分かった。
 俺を取り巻いていた人達は「よかったね」と俺の頭を撫でてから立ち去った。
 美咲は浴衣とおそろいの柄の巾着からハンカチを取り出し涙を拭いてくれた。
 「ごめんね、私が迷子になっちゃって」
 そう言って俺の右手を掴んだ。
 美咲の足元を何気なく見たら、下駄を履いて歩き回ったせいか親指と人差し指の間が痛々しかった。
 「行こう。雅紀も裕紀のこと探してるから」
 安心したら、また涙が溢れてきた。
 なんだかそれが子供っぽくて恥ずかしくなったのでじんべいの袖で拭って、美咲と歩き出した。
 兄貴と合流できた頃には花火はフィナーレを迎えていた。
 「間に合った。一緒に花火見れてよかったね」
 美咲は俺に笑いかけた。
 「うん」
 3人で見た花火は、あれから数年経った今でも鮮やかな色彩で脳裏に焼き付いている。




























※この小説(ノベル)"鮮やかな季節"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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