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夏の停止線 (執筆中)

作:第1回みんなのライトノベルコンテスト作品 / カテゴリ:みんなのライトノベルコンテスト(フリー) / 投稿日:'08年1月11日 10:53
ページ数:107ページ / 表示回数:58023回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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30 夏に降る雪

 闇の中でわたしは何かを掴もうとしていた気がする。
 それはずっと掌に感じていたはずの、大切な感触。それを失ったような気がしたから、わたしは自分の指を動かそうと思った。
 なぜかうまく動いてくれない、鈍くなったわたしの指を、心の中で叱咤する。
「鈴菜。鈴菜、わたしよ、わかる?」
 耳元で声がした。
 その声で、ぐいっとわたしは引き上げられたような感じがした。深海の底から水面に向かって勢いよく浮上したみたいに、わたしの眼が、耳が、その瞬間機能を取り戻した。
「鈴菜。返事をして」
 わたしの顔を覗き込んでいてのは、茜ちゃんだった。茜ちゃんが頬に大きめの絆創膏をした姿で、泣きそうな表情でわたしを見つめていた。
「あれ……茜ちゃん」
 わたしの喉は奇妙に乾いていて、声は掠れてかすかに出ただけだった。
 身体のあちこちが痛い。
 ここはどこだろう。わたしは横になっている。たぶん、ベッドに。
 仕切りのカーテンが天井から下がっているのを見て、保健室に似ているとちょっと思った。
 腕に点滴を受けていることに気づき、ではここは病院だろうかと考える。
 何があったんだっけ。わたし、どうして病院にいるんだろう。
 そのあとお医者さんや看護婦さんがきて、わたしの身体を診察したり包帯を替えたりしたようだった。
 わたしはそのあとしばらく眠ったり起きたりをくりかえし、少しずつ断片を思い出してきた。
 そうだった。奇妙な振動や紫めいた色に光る空。落ちてくる火の玉。あれのせいで、わたしはたぶん大怪我をしたのだ。
 でも、それだけだっただろうか。わたしは何か重要なことを忘れているような気がする。いったいなんだろう、この喪失感は。
 治療の合間に茜ちゃんが尋ねてきてくれて、いろいろな話をしてくれた。
 突然襲ってきた、正体不明の「敵」の話。世界中が一方的に攻撃を受け、建物は壊れ、地形は変わり、多くの人が亡くなった……。
 わたしの母も亡くなったらしい。最後の記憶に残る母は、断崖にかろうじて掴まっていた。
 わたしは母の手を掴んでいたのに、助けられなかったのだ。
「茜ちゃんのご両親も……?」
「うん……たぶんね。敵の攻撃が止んでから、あちこち探し回ったけど、見つからない」  涙をこらえるように茜ちゃんは言う。
 今、日付は、5月に入ったばかりだそうだ。
「あたしは比較的、怪我が軽かったから、ここでボランティアやっていたんだよ」
「ここ……病院だよね」
「そう。駅から北口に十分くらいの病院。ここは地盤が頑丈だったこともあって、偶然建物がほとんど残ってたんだよ。庭とか駐車場がけっこう広いから、避難所にもなっていて、あたしはそこで配給のときにお手伝いしてるの」
「そうなんだ……」
「そのおかげでこうして鈴菜と会えて嬉しかった。大怪我してたけど、生きてるってわかったから。そのことがずっとあたしの支えになっていたの」
「わたしも茜ちゃんに会えて嬉しい。ものすごく嬉しいよ……」
 そう言いながら茜ちゃんの手を握り返す。わたしは肩や肋骨、内臓の一部をやられていたらしいけれど、その怪我もきっとそのうち治るからとお医者さんから言われた。
 起き上がれない状態のまま、わたしはそのあと一ヶ月ばかり病院のベッドで過ごした。
 その状態で首だけめぐらせて見る、窓の外の風景は奇妙な瓦礫に覆われていた。

※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。

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