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この間菫崎くんと話をした音楽堂に、深森先輩と共に向かうことにした。
裏側の、木陰。ベンチがあった場所だ。
駅まで向かい、北口側まで回る。そこから十分くらい歩くことになる。
深森先輩は本当は走って急ぎたかったのだろうけど、わたしが体力なくてすぐ息が上がってしまったから、やや早足で歩くレベルになった。
太陽の角度が高くて、日差しが強い。並木道が作る影が、コントラストをくっきりと歩道の上に落としていて、目が痛くなる。
ガラス張りの建物が近づいてくる。目的の音楽堂だ。
表の広場に足を踏み入れて、深森先輩が周囲を見回した。
「……いないな」
「あの、いるとしたらたぶん裏の方です」
わたしは呼吸を整えながら、深森先輩を導く。
ガラスの建物を大きく回りこんだとき、あのマウンテンバイクが無造作に駐輪してあるのが見えた。
その自転車のサドルのあたりを覗き込んでいる人影があった。白っぽいシャツを無造作に着込んでいる人物。
「あれ。鈴菜」
意外そうな顔をしてわたしの方を見たのは、鴇田くんだった。
松葉杖をついているけれど、脚のギプスは外れているようだった。
自転車のサドルには、テニス用の白い帽子が乗っている。
「鴇田くん……っ」
わたしは息を呑みながら、ようやくそれだけを言った。
「どういうことだ。結局鴇田くんなのか、ひったくり犯は」
深森先輩が困惑したまま尋ねる。わたしはわけがわからなくて、返事ができない。
「おい、ひったくりってなんだ。人聞きの悪い。俺を呼び出したのは鈴菜か。それとも深森さんなのか」
わたしは深森先輩と顔を見合わせた。
「呼び出しって……鴇田くん、ここに誰かに呼び出されたの」
「ああ。この時間にここに来るようにって。変な手紙だと思ったけど、ほら、俺、退院後のリハビリであの病院に来るついでがあったから」
鴇田くんは松葉杖で、通りを挟んだむこうの建物を示す。鴇田くんの入院していた病院だ。
「来てみたら、俺の愛車そっくりのマウンテンバイクが置いてあってびびった。でも俺のじゃない。俺のチャリは事故ったときにダメになっちまったから、廃棄処分にしたはずだ」
よく見ると、鴇田くんのシャツは確かに白っぽいけれど半袖だ。筋肉質の日に焼けた腕が見える。
「じゃあやっぱり、この自転車は……」
わたしはマウンテンバイクを間近に眺めながら、自分の記憶と照合する。
そうだ、鴇田くんの自転車よりも新しくて、通学許可証のシールなども貼ってない、この自転車の主は。
「ははは。ようやく役者が揃ったじゃないか」
音楽堂の屋上から、ゆっくりと顔を覗かせた人物がいた。
ひょろっと高い身長で、さらさらの長い髪をしている、中性的な顔立ちの……菫崎くんだった。
菫崎くんの手には、深森先輩の事務所で使用しているあの集金用ポーチがあった。
わたしは屋上を見上げながら叫んだ。
「菫崎くん、どういうつもり。ふざけないで。それ、大切なものなのよ。返して」
「藍沢って、俺には風当たり強いよね。嫌になっちゃう」
菫崎くんはわたしたちの足元近くにポーチを放ってよこした。ポーチは時間をかけてすうっと落下してきた。深森先輩が急いで跪き、そのポーチを拾い上げる。
「中身、大丈夫ですか、先輩」
「今確認する」
深森先輩はポーチのファスナーを開いて中を見た。
「……? 小切手が」
「えっ」
わたしもポーチの中身を見る。印鑑や通帳、小銭は入っているけれど、小切手が見当たらない。
※この小説(ノベル)"夏の停止線"の著作権は第1回みんなのライトノベルコンテスト作品さんに属します。
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